#192:帝都辺境、ミュートスの隠れ里 - ⅱ

 帝国兵以外に動くものとてない里を、それでも
「ミュートスはずる賢いからな。戸棚や水瓶の中とかに隠れているやもしれぬ。見逃すな!」
 と、一向に殺戮の手を休めるつもりのない口調で、ヤニスは自分の兵たちに激を飛ばす。
 言われるがままに、水瓶や積み上げられた薪の陰などを探している兵たちは、里の入り口に奇妙な影を見つけることとなった。
 それはよく見ると大柄な男で、憤怒の形相で殺戮のあとを睨みつけていた。
「誰だ!?」
 数人の兵士が、槍を構え男に誰何した。
 男はそれに答えず、憤怒の形相のままその兵たちに言った。
「……帝国の兵か?」
「そうだ。お前は何者だ!? ミュートスか!?」
 どうやら只者ではなさそうな様子の男を前に、兵たちが緊張して槍を構えるそんな中。
「……俺にもわからん」
 と、男は少し寂しげとも憮然ともとれる口調で呟く。
「何!?」
「だが……」
 男はゆっくりと視線を里の中央に向けた。
 あの娘の亡骸と血まみれの乳母車がそこにあった。
「こんな事が出来るお前たちは……人間ではないな」
 男に言われ、先頭の兵士は言葉を詰まらせてしまう。
 次の瞬間、後ろの方で男を睨みつけていた気の強そうな兵士が、仲間を押しのけながら前に出た。
「皇帝陛下の勅命だ! 帝国に仇なすミュートスを退治せよと!」
 そのまま、ぐいっと背筋を伸ばして男に対峙すると
「邪魔立てするなら、お前も同じ目にあってもらうぞ!」
 と、この日だけで相当の血を吸ったであろう槍を勢い良く突きつけた。
 男は、その兵士をそれは陰惨な目付きで睨みつけると
「——やってみろ」
 と、言い放つ。
 そして、次の瞬間——
「な、なんだ!?」
 男の周りに、突然ドス黒い霧が立ち込める。
 瘴気とでも言うべきなのか、それは一目見て【良くない】ものであった。
「お、おい……」
 兵たちが呆然と見守る中——男の身体が、異形のそれに変化していく。
 両腕は大蛇と獅子に変貌し——頭にはメリメリと言う音とともに、曲がりくねった角まで生えてくる。
「ば、ば……」
 あれだけ威勢がよかった兵士たちだったが、完全に度肝を抜かれた体で数メーター後ずさった。
 特に先頭で退治していた兵士は、腰をぬかしたのか全く身動きのとれないまま、驚愕の表情で男を——キマイラを見た。
「ば……化け物ぉ!?」

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