#195:キリオス街道 - ⅰ

 クニスカは聖イリオンの首都と中核都市を結ぶ大きな街道——通称『キリオス街道』を旅していた。
 帝都を発ってから、数週間。キマイラの足取りは杳としてつかめなかったが、断片的な噂を幾つか入手することには成功していた。

 曰く、巨大な獣が混ざり合った化け物。
 曰く、襲われた者を無残にバラバラにしてしまう。
 曰く、立派な武装をした帝国兵たちが、その化け物に挑んで返り討ちにあい、皆殺しにされた。

 要するに、ゴートから聴いた話以上の情報は無いわけだが、その噂を聞く度に
(もお、帰りたいワ……)
 と、クニスカのテンションは大いに降下していたのだった。

 街道沿いの比較的大きな街で聞きこみをするクニスカだったが、目新しい情報は得られない。
(ホンマにいるんか? 噂が独り歩きしてるだけちゃうんかな?)
 と思ってしまうほどに、キマイラの具体的な居場所などはわからない始末だった。

「クニスカ卿?」

 気分転換に屋台を冷やかしていたクニスカの背中に、唐突に声がかけられた。
 振り返ったクニスカの目線の先にいたのは、仮面の戦士とマントの少女。
「このようなところでお会いするとは、奇遇ですね」
 微笑みながらこちらに近づいてくるスフィンクスとネメアを見て、細い目を可能な限り丸くする。
「ああ、ゴート卿のところで何度か……」
 クニスカはそう言いながらスフィンクスの名前を思い出そうとして、実は自己紹介の類をしていなかったことに気がついた。
 それはスフィンクスも同様だったようで『あれ?』と言う表情になったあと
「すみません、ちゃんとご挨拶をしていませんでしたね」
 と、少しだけバツが悪そうなほほ笑みをみせる。
「私は武者修行中の戦士でスフィンクスと申します。ゴート卿には帝都で色々とご用事を仰せつかっております」
「なるほど、ゴート卿に……改めて、帝国騎士のクニスカですワ。よろしくお願いします」
「ご高名はかねがね。どうかよろしくお願いします」
 そんな社交辞令的なやりとりをしつつ、クニスカは内心で首をひねった。
(何で仮面かぶってンねん、この兄ちゃん?)
 疑問を感じたものの、もしかしたら仮面の下に傷があるとかそういう事情もあるのかもと思い直す。
 当のスフィンクスは、後ろに控えていたネメアをクニスカの前に立たせて紹介を済ませるとゆっくりと口を開いた。
「テルプシコルと言う名前をご存じですね?」
「ムーサイの巫女、ですやろ?」
 謎の戦士からテルプシコルの名前が出たことに少し意外な思いを抱きながらも、クニスカは普通に返事をする。
 スフィンクスは少しだけ言葉を探すような表情になったあとで、話をつなげた。

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