#197:キリオス街道 - ⅲ

 確固たる信念が騎士団長の制服をまとっているようなゴートの風貌を思い出し、諦観の表情を寸暇見せながら、スフィンクスは首からかけていた護符をゆっくりと外した。
「そうしたものは穢れていますから……この護符は穢れから身を護る御利益があります」
 そう言いながら、あまり見覚えのない紋章が刺繍された袋に入った護符をクニスカに渡す。
「どうぞ、使ってください」
「わあ、いいんですか? おおきに!」
 護符を受け取ったクニスカは、笑顔で自分の首につけた。
 子供の頃、『お菓子をあげるからこっちにおいで』などと言ってくる、知らない人についていったらいけないという話を学校の先生から聞いた時に
『でも、飴玉をくれはるンやろ? モノをくれる人はエェ人やンかいサ』
 と言い放って、先生を絶句させた筋金入りの西方人である。
(悪い人ちゃうねンなあ、この人ら)
 モノ貰った瞬間に、先ほどの警戒はどこへやら。
 その後は一気に信頼した様子で、街道のどこそこが荒れているとか、あの宿屋はオススメだとか、挙句に
『ここから数日進んだところにある、海に面した街で食べたシーフードの串焼きがおいしかったですよ!』
 という、およそ任務になんの関係もない情報を交換しまくったのだった。

「では、私たちは帝都に戻ります」
 キマイラは見つからないけど旅路は豊かになります的な満足度を高めた感じのクニスカにそう告げて、スフィンクスは頭を下げる。
「ウチは、キマイラを捜してみますワ」
 ひらひらとお気楽に手を振るクニスカに、スフィンクスは居住まいを正してから微笑んでみせた。
「ご武運を」
「ソチラも。気ぃつけてください」
「はい、ありがとうございます!」
 お互いに互いの幸運を祈りつつ。
 市場の入口付近、街の中央あたりで別れたスフィンクス・ネメアとクニスカは、全く逆方向へと歩いて行くのだった。
「さて」
 クニスカの姿が人混みに紛れて見えなくなったのを見計らって、スフィンクスはネメアのほうに振り返った。
「我々は買い出しをすませてしまいましょうか」
 まだ日は高く、もう少し先まで歩くつもりのスフィンクスに、ネメアはにっこりと微笑んで頷いた。
「そうですね。とりあえず、今晩の食べ物を買ってしまいましょう」
 行けるところまで行ってから野宿という腹づもりだったので、食材を買い込まなければいけない。
 旅の途中は乾燥肉とか保存食が多くなるが、街を発ったその日の夜は新鮮なすぐ腐ってしまうような食材も使える。
 ネメアは『はい!』と元気よく返事をしてから、たたんでしまってあった買い物袋を取り出した。
 そして、そこそこ人出のある市場に向かって歩いて行くのだった。

公開 : / 最終更新 : (1102文字)

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