#198:キリオス街道 - ⅳ

 市場の入口で、言魂使いの若い娘が立ち尽くしていた。
 娘の名は『ユキ』。
 聖イリオン帝国からはるか東方にある【葦原の国】からやってきた言魂使いである。
 無骨な木綿の着物に野袴という出で立ちは、明らかに聖イリオンの人間でないことを表していた。
「このユキ、葦原よりはるばる来たはいいものの……」
 呟きながら、左右を伺う。
 人は多いが、知り合いがいるはずもない身の上で、特に彼女の呟きに反応する人もいなかった。
「これより帝都に入らねばならんのでござるが……何のアテも無く入ってもその先が続かんでござるし……できれば、城内へも入ってみたいものでござるし」
 なおも、左右を伺う。
 大陸の西方に位置する街だからだろうか、葦原人の姿は全く見えない。
「ハテサテ、どうしたものでござるかな?」
 少し間を置いて。
 ユキは、はあっとため息をついた。
(わざとらしくこういう独り言を言ってみると、『どうしたんだい?よかったら力になろうか?』なんてスカした御仁がこのユキの美貌目当てに声をかけてくるものなのでござるが……)
 そんなことを考えながら、再度あたりを見回す。
 ユキの異装に奇異の目を向けるものはあっても、難儀しているユキのために立ち止まるものはいなかった。
 その結果を前に、ことさらに大きいため息をついて独白する。
「皆、ブス専でござるのかな?」
 自分勝手かつ失礼な独白だった。

「——やや?」

 ユキの視界に気になる二人組の姿が入った。
 一人は仮面をつけてなお美貌であるとわかる青年。
 もう一人は、従者と思しき全身をマントで覆った少女だった。
(これはまた、ずいぶんスカした御仁でござるな)
 経験上、スカした男はスカしたことをいうものだ。
 ただ、ここは故郷を遠く離れた聖イリオン帝国の西方地域に入ろうかと言う町である。故郷と色々違うところもあるだろう。
 本当にスカしているのか確認すべく、ユキはさらに観察を続けた。
(少女を連れているのが、若干の不安材料か。あーゆーのが趣味ならばこのユキは、大人の魅力が満載すぎて対象外でござるゆえに)
 よく見ると【スカしたの】が【あーゆーの】の荷物を持ちながら、市場を散策している模様。
(れでーふぁーすとなのか、それとも尻に敷かれているのでござろうか……)
 一拍の思案の後、ユキは軽く頷いた。
(まあ、当たって砕けてくじければ良いのでござる)
 何事かの決心がついたものか、ユキは股立を取って気合を入れると、物陰にさり気なく移動する。
(では……『独り言作戦』発動でござるよ)
 すう……
 音もなく、ユキは二人の背後へと人混みにまぎれて近づいていった。

公開 : / 最終更新 : (1090文字)

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