#20:神殿(四)

 ジンもクニスカと同様にあっけにとられて見ていたのだが、オーラをまといアークの前に立つメイミィを見て、やおら我に返って叫んだ。
「アークと戦うなんて無茶だよ、メイミィ!」
 腕利きのロゴス使いが集まる『騎士』の中でも、相当に強い部類に入るアークであった。
 大きなモンスターも一撃で倒すその技は、人間でも同様に威力を発揮する。
 必死で叫んだジンの声を聞き、メイミィは思わずジンの方を振り向いた。
「いきなり呼び捨てでも、全然頭にこないよ」
 そして、心配そうなジンに向かってにっこりと笑顔を見せた。
「……やっぱり、お兄ちゃんかもね」
 目を丸くするジンにくるっと背を向けて。メイミィはアークに向かって勢いよく拳を突き出してみせた。
「よおし、いくぞぉっ!」
 そんなメイミィに、アークはぐっと拳を握りながら頷いてみせる。
「いつでも」
 ただ、その一言で。
 その場の空気が張り詰めた。
 メイミィは軽やかにステップを踏みながら、巧みにアークと一定の間合いを保つ。
 そして、アークが動こうとする一瞬の隙を突いて
「『ハミングリズム!』」
 と、猫がなにかをひっかくような仕草にも似たパンチと共に言魂を発する。
 そのパンチとともにオーラの衝撃波がたたきつけられるのを、アークはかろうじてガードしてみせた。が、戸惑いを隠せぬように眉根をよせる。
(やっぱ……小さな女の子相手じゃ、アークも今ひとつ調子に乗り切れンわな)
 少し離れたところで、傍観モードのクニスカ。そんな事を考えてため息をつく。
 本来ならば、まるでタイムテーブルでもあるかのようにテンポ良くオーラを練り上げていくアークが、まともにオーラをまとっていない事からもそれが伺える。
 そのアークは、クニスカの洞察の通り反撃の糸口をつかめずに戸惑いを感じていた。
(……リズムが特殊だな)
 アークもジャブや手刀を放ってみるものの、猫のように俊敏なメイミィに攻撃をすべてかわされてしまう。
 その合間にメイミィから放たれる技は、今までアークが経験したことのないもので、さすがのアークでもガードすることがやっとだった。
(言魂を乗せるモーションが……ロゴスとはまるで違う)
 ふう、と。ため息をつくように力を抜く。そうしながらアークは心を静め、目を細めて軽快なフットワークを刻むメイミィを見た。
(——まるで、踊りを踊っているようだ)
 軽やかにリズミカルにステップを踏むメイミィのミュートスは、闘っていると言うより舞っていると言うほうがしっくりくる。
 アークは得体の知れないやりづらさを感じながら、メイミィの背後にいる謎の少女とその少女を守るように立つジンを見た。
(……いつまでも、こうしてはいられないな)
 深呼吸するように、オーラを練る。アークの身体がぽおっと光を帯びた。
 メイミィは動きが止まったアークにここが攻め時とばかりに攻撃をする。
「『ハミングリズムっ!』」
 まるで猫が猫じゃらしに飛びつくように、ノーモーションで俊敏に腕を伸ばしてオーラをたたきつけようとする。アークはそんなメイミィの攻撃を読んでいたのか、ぱぁん!といい音をたてて完全にメイミィの攻撃を弾いてみせた。
 驚いて目を丸くするメイミィに、アークはフッと薄く微笑んだ。
「——だいたい、わかった」
 まるで、刑執行の宣告のような響きだと感じたメイミィはあわてて後ろに大きく飛んで間合いを取ろうとする。
「……いくぞ」
 アークは、その動きを完全に読んでいたのであろう。メイミィが飛ぶのに合わせて大きく踏み込み、離れた間合いを瞬時に詰めた。
 着地で少し泳いだ体勢のメイミィの懐に潜り込むように飛び込んで。アークの手元でオーラが剣の形に実体化する。
「『ハウリングソード!』」
「きゃあっ!?」
 裂帛の言魂とともに振り抜かれたオーラ剣を受け損ね、メイミィは派手に数メートル吹っ飛ばされた。倒れこそしなかったが、大きなダメージにさすがに足下がふらつく。
 慌てて体勢を整えようとするメイミィに向かい、落ち着いた足取りで間合いを詰めるアーク。
 そして。
 明らかにメイミィが劣勢になってきたのを、ジンは焦燥の表情で見る。
 慣れないミュートス相手に戸惑っていたアークがいよいよ本調子になってきた——そうなれば、おそらくメイミィに勝ち目はない。
(なんとかしなきゃ……なんとか……)
 気持ちばかりが焦り、しかし、どうすればよいのかわからない。
 そんなジンにテルプシコルは、目をつむり精神を集中させながらぽつりと言った。
「もう少し時間を稼げ。あとはなんとかする」
 それは、この期に及んでもなお揺るがない自信に裏付けされたような——全く動じている気配のない、そんな口調だった。
「……わかった」
 ジンは決意を固め、前に出た。そして後ろに下がってきたメイミィの肩をグッとつかむ。
「下がって、メイミィ。僕がいくから」
 でも……、と。肩で息をしながらも、メイミィはその申し出に躊躇の色を見せる。
 だが、つい先ほどまでの自信なさげな感じではなく決意の表情で前に出たジンを見て、メイミィは無言で頷き後方へと下がった。

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