#201:キリオス街道 - ⅶ

 当のユキはお気楽に微笑んで立っているが、よく見ると袴の裾はいい具合に擦り切れ、着物や荷物の痛み具合などからも相当過酷な旅路を経たことは想像に難くない。
 さながら世界の果てから来た武人とも言える目の前のユキを、ようやく落ち着いたスフィンクスは興味深く見ていた。
 東方の武人というのはそれだけでも謎に包まれた神秘的な存在である。
 まして、女性の武人というのはスフィンクスも聞いたことがなかった。
(きっと、ゴート卿も興味を持たれるに違いありませんね)
 ユキを連れて行くことを割と早くに決めて、スフィンクスはネメアの横に並んだ。
「あなたのような武人に興味を持たれる帝国騎士がいらっしゃいます。その方にご紹介するという名目で、イリオンの城内へご案内できますがどうですか?」
「それはかたじけない! ぜひ、お願いいたすでござる!」
 願ってもないスフィンクスの申し出に二つ返事で乗るユキは、心中で全力のガッツポーズを決めた。

(独り言作戦、成功でござる!)

 正直、策を弄するより初めから素直にキチッと話せばよかったのではないかと思わなくもないが。
 何にせよ、話がまとまったとあってスフィンクスは笑って自己紹介を始める。
「私はその騎士の方に食客としてお世話になっているスフィンクスと申します。こちらは従者のネメア」
「よろしくお願いします」
 その挨拶を受け、ユキも深々と頭を下げた。
「こちらこそ、何とぞよしなにお願いするでござる」
 東方国こと葦原の国は『礼の国』とも言われる。
 相当に破天荒に見えつつも、締めるべきところでは実に礼儀正しいユキを見て心中感嘆しながら、スフィンクスは荷物を担ぎ直す。
「さて、早速なのですが先を急ぐ身。今日はもう少し脚を伸ばしてこことロクリスの中間地点あたりまで行き、そこで野営と言うことにしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「まったく問題ござらぬ。野宿は慣れてござるので、気にせずに」
 スフィンクスとしては、一刻も早く帝都に戻りゴート卿へアークやマック、そしてなによりテルプシコルのことを報告したいところだった。
 きわめて強行軍となる旅程であったが、そのあたりの事情をまるで斟酌する義理のないユキに快諾してもらえたことはありがたかったのだろう。思わず安堵の表情になる。
「では、行きましょうか」
「心得たでござる!」
 仮面の戦士とマントの従者、そして東方の武人と言うなんとも珍妙な三人組は、足取りも軽く市場を後にしたのだった。

公開 : / 最終更新 : (1027文字)

ページトップ