#203:キリオス街道──野営地 - ⅱ

 ユキはメインである卵に包まれた豚肉にも手を付け、これまた感嘆の声を漏らす。
「おお……この豚肉も美味しいでござるな」
「ピカタですね。小麦粉をまぶして塩こしょうをした豚肉を香草を刻み入れた溶き卵と一緒に焼いただけなんですよ」
 焼かずにパン粉をまぶして揚げればトンカツになるといえば、イメージが湧きやすいだろうか。
 レシピによってはソースを作ってかけるものもあるが、ネメアは塩コショウと香草だけで味つけして、豚肉と卵の旨味を楽しむ方が好みであり、このピカタもそういう作り方をしている。
 もちろん、豚肉の替わりに牛肉や鶏肉でも美味しくいただけるが、風味的に豚肉が一番マッチングが良いのではないかとネメアは思っている。
「初めて食べました。美味しいですよ、ネメア」
 別段、故郷の味と言うわけではなく、旅の途中に手に入れたレシピ本などで学んだ料理だった。
 試しに作ってみたら思いのほかうまく出来た感じで、ネメアはほっと胸をなでおろし、そして照れくさそうにはにかみながらペコリと頭を下げる。
「スミマセン、簡単な料理ばかりで」
 基本、下ごしらえもさして時間のかからないもので、手順的には簡単な品ばかりである。
 それを聞いてユキは笑顔で首を横に振った。
「簡単な料理がこれだけ美味しいのは素晴らしいでござる。かまどもちの良い子は良いお嫁さんになれるでござるよ」
「お嫁さん……」
 その一言が想像の翼を広げるトリガーだったのか。
 何かを想像しながら、ネメアは夢見る表情になる。
 それを見て、スフィンクスはうんうんと頷きながらユキの言葉に同意する。
 ユキは、そんな二人に向かって屈託のかけらもない笑顔でこう告げた。

「ふたりきりで旅を楽しまれているところ申し訳ござらぬ。なに、このユキは空気のようなものと思い、ぞんぶんになさっていただいて結構でござる」
「な、な、なさってって……」
「い、いや……そう言うお気遣いは無用ですので、その、大丈夫です」

 ユキの言葉を聞いてネメアは、おもいっきり赤面する。
 その横で、スフィンクスも言っている意味がわかったのと、テルプシコルたちとの【女子会】での話題を思い出したのだろうか、それは盛大に大赤面と相成った。
 そして、この上なく真っ赤な顔になった二人を見て、ユキは心底愉快げにわははと笑った。
「これはご無礼つかまつった!」

 かくして。
 寂しげな街道ぞいでの野営であったが。
 極めて賑やかに、夜が更けていったのであった。

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