#204:帝都辺境、とある村 - ⅰ

 それは、街道から脇道に少しそれたところにある小さな村でのことだった。

「帝国の騎士様……でございますか?」
「うん、そうやけど……?」

 ゴートに命じられて、嫌々ながらキマイラ探索を続けていたクニスカを村の老人が呼び止めた。
 背中のブーメランに刻まれたトリオンの紋章を見て、恐る恐る声をかけたと言う風だった。
(もーすこし若けりゃ、ナンパでもされたンかなあとココロときめいたのに)
 とか、お気楽なことを考えながら歩みを止めたクニスカに、老人は恭しく頭を下げる。
「お忙しいところ失礼致します。この村で一番の年寄りでございます」
「そりゃ、元気そうで何よりや」
 長老っちうことやな、と向き直って一礼する。
「ウチは聖イリオンのフォーネス、帝国騎士クニスカや。今日は任務でこの村に立ち寄らせてもろた。長居して迷惑をかけるつもりはないデ」
「迷惑など、とんでもないことでございます。遠くイリオンからこのような村まで、ご苦労様でございました」
 ここを目指してきたわけやないけどナ、とクニスカはあたりを見回す。
 なるほど、随分と寂れた村で人通りもほとんどない。
「ウチになにか用事でもあるンか?」
「恐れいります。お伝えいたしたいことがございます」
 予測の範疇だったのだろう。クニスカは先を促すように頷いてみせた。
 老人は、村の奥にある森を指さして話し始める。
「実は、先日ミュートス狩りの騎士様と兵隊さん達が、その森に入って行かれましてな」
 なにやら雲行きが怪しい流れになりそうな老人の話の切り口に、クニスカは心中で嘆息する。
 もちろん表向きには
「ふむふむ」
 などと相槌を打ったりしているわけであるが。
 老人は緊張の面持ちで、普段滅多に見ない【帝国騎士】に話を続けた。
「なんでも、森の向こうにミュートスの隠れ里があるとかで」
「ははあ」
 なおも適当に相槌を打ちながら、話の流れが俄かに掻き曇ってきたのを感じて、心中嘆息する。
「そうしたら……」
 老人は、そこまで話すと少し言葉を詰まらせてしまう。
 だが、意を決したようにクニスカの顔を見て口を動かした。
「その騎士様も兵隊さんも……モンスターに襲われて皆殺しになったという事なのです」
(ほーら、きたでー……やっぱ、きたでー)
 堪忍してくれ的な表情をあからさまに浮かべつつ、クニスカは老人に尋ねた。
「なんでそんなことが分ったン?」
「大怪我をした兵隊さんが、この村まで命からがら逃げ出してこられましてな。かわいそうに、腕を千切られておりましてなぁ……手当もしたものの結局……」
「そりゃ、手間をかけたナァ。礼を言わせて貰うデ」
 そう言って自分に頭を下げる帝国騎士の娘に向かって、驚いた顔で老人は首を横に振る。
「いえいえ、お礼などとんでもないことでございます……! 何でも獅子や大蛇のモンスターで、皆バラバラに喰い殺されたとか」
 兵隊さんもおかしくなってしまっていて、何を言っているのかよくわからなかったのですが、と言うのを受けて、クニスカは思案気な表情になる。
「それは、いつくらいの話や?」
「つい、ニ、三日前のことでございますよ」
 クニスカはそれを聞いて更に考えこむ。
(たぶん、キマイラや……ニ、三日なら、この辺りにまだおるかもしれへンなぁ)
 正直、行きたくない。
 だが、任務である。
 揺れに揺れ動いた心だったが
「今もそのモンスターが里の付近に住み着いているとかで。森に入ることが出来ずにこまっておりまする」
 という老人の言葉で、クニスカの気持ちも整理がついた。
「わかったワ。ウチが見てきたる」
「おお! 騎士様、ありがとうございます!」
 クニスカは老人と、そして建物や樹の影からこちらを伺っている村人たちに手を上げながら。
 深い森のなかに分け入っていくのだった。

公開 : / 最終更新 : (1555文字)

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