#208:帝都イリオン、クニスカ自宅――数週間前 - ⅰ

 ゴートへのテルプシコルの一件を報告し終えた後、クニスカは数カ月ぶりに自宅へ足を向けた。
 門柱のところから覗くと、中年女性が小さな畑に植えたカボチャの絡むだけ絡みまくったツルと格闘しているのが見えた。
 クニスカの母親であった。
(まァた、植えたンかいな?)
 毎回、カボチャだの瓜だのスイカだの、ツルの始末が大変なものを植えては文句を言う母親だった。
 苦笑しつつ、門のところから母親の背中に声をかける。

「ただいまー」
「いや!?」

 ビクゥ!!
 両肩をおもいっきり跳ね上げる勢いで、大いに母親はビックリした。
 振り返りながら、胸を抑えて娘の方へ歩き出す。
「なんや、アンタ! いつ帰ってきやったン!?」
 『おかえり』でも『無事でよかった』でも『元気そうで』でもなく。
 危険な辺境へ旅に出た娘が帰ってきたのを受けた、第一声がコレである。
 クニスカも思わず苦笑しながら頭をかいた。
「さっきさっき。ゴート卿のトコ行ってな。今、戻ってン」
「いつくらいに帰るテ、言うてくれへんとビックリするがな!」
「言われへンがな! 任務で行ッとってンもん」
 かなんのー、ホンマとクニスカはボヤいた。
 街の何処かへ出かけた娘と母親のような、なんとも緊張感のない会話であった。
 そして、母親は畑仕事で服に付いた土をパンパンと払って、娘にむかって手招きをする。
「とりあえず、中で休んどき。お茶いれたげる」
「うん、そうするワ」
 うーん、と背伸びする我が娘を見て、母親は娘とよく似た感じで苦笑した。
「アンタの好きなもンを入れて晩の支度をせなあかンなぁ」
「やった」
 ニヤリと笑う娘を見てから、母親はパタパタと台所へと走っていくのだった。
 
 その後、お茶をしたクニスカは自室へ向かった。
 久しぶりにお気に入りのソファに座ってのんびりとしていたら、気が付くと夕刻となり夕食の準備が出来上がっていた。
 なお、母親いわく好物づくしの献立は以下の通り。

 カボチャのグラタン
 カボチャと鶏肉の蒸し物
 焼きナスと焼きカボチャのマリネ
 クルミとレーズンのパンプキンサラダ
 冷製パンプキンスープ

 ——以上の5品である。

「カボチャだけやないかい!?」
 勢いのある、良いツッコミだった。

 母親はきょとんとした顔で我が娘を見た。
「何がいな? グラタンも鶏肉も、焼きナスもクルミも冷たいスープも好きやろ?」
「いや、明らかに全部カボチャが主役やろ」
 一拍の間。
 母親は力強くグっとサムズアップしてみせる。

「ほっくほくやで!」
「……あくまで作りすぎたンを認めない気ぃやな」

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