#209:帝都イリオン、クニスカ自宅――数週間前 - ⅱ

 席についたクニスカはバスケットからパンを一つ取り、自分の皿に置いた。
 当然ながら——生地にはカボチャが練り込んであった。

「おお! ごちそうやな!」
 ガッハッハと豪快に笑いながら、クニスカの父親が食卓についた。
 北方辺境区でそれなりに大きな領地を収めている豪族であるが、言魂の資質がなく騎士ではなかった。
 それ故に、クニスカが騎士になったことが何より誇らしく、自慢の愛娘が帰ってきたことが何より嬉しく思えるのだろう。
 極めて上機嫌にパンを一個取りながら、あらためてテーブルを眺めた。

「カボチャだけやないかい!?」
 父娘の絆を感じる、良いツッコミだった。

 そして。
 軽い夫婦喧嘩の後、楽しい夕食が始まった。

「お父ちゃん、領地には帰らンで大丈夫なん?」
「アギスが留守番しとるからな、大丈夫や」
 アギスとはクニスカの兄である。
 彼もまた、父と同じく言魂使いの資質がなく、代わりに経営の資質に優れているために若いながらも父の替わりに領地運営を任されていた。
 父親は良く出来た息子と娘がいるおかげで、帝都にずっと詰めることができているのだ。
(……何食べてもカボチャの味しかせえへん)
 逆にそれ以外の味がしたら驚きなわけであるが、次は何を食べようかフォークの先を迷わせているクニスカの顔を父親が上機嫌に眺めていた。
「オマエも一人前の騎士になったようやなあ」
「まあ……騎士の叙勲を受けてからもう4年目やし」
 苦笑しながら、カボチャのパンを一欠片ちぎって冷製パンプキンスープに浸して食べた。
 アカン、味変わらんとか思っているクニスカに、父親はウンウンと頷いてみせる。
「オマエが帝国の威信をかけて、国中を駆け回りよぉからのぉ。わしゃ、うれしいンや」 
「もお、お父ちゃん……そんなたいそうに言わンといて」
(自分の好きな研究をメインでやってるわけやし)
 どちらかと言うとサボっている自覚がある分、その言葉を面映ゆく感じてしまう。
 父親は、なおも気にせず語り続ける。
「ミュートス狩りの勅命、下っとンのやろ?」
(やってへンけどな)
 心中でざっくりとツッコミを入れる。
 アークもクニスカも、その辺りは大いに不真面目であるわけだが、ミュートスの細かい事情を知るクニスカとしては、どうしてもミュートス狩りをする気にならなかったというのが本音である。
「ミュートスは帝国に仇をなす、呪われた連中やろがい!?」
 この父親の言葉が、まさに一般的な帝国臣民の認識である。

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