#21:神殿(五)

「アーク……」
 まだ新しいグラブをはめて、ジンはアークの前に立つ。
「ぼくはアークのことを信じている」
 言葉を探す風に、少し逡巡したあとで、ジンはアークの顔をまっすぐに見た。
「でも……何もしていないひとを話し合いもせずに、ロゴスまで使って捕まえるなんて。これは、やっぱりおかしいよ」
 そう言いながら、自分が与えたグラブをはめて、自分に向かってオーラをまとうジンをアークは少し寂しげな表情で見る。
「……いいだろう」
 だが、次の瞬間には、アークは普段通りの表情でジンと対峙していた。そして、ぐっと胸の前で拳を握り込み、厳しい表情のジンに向かって頷いてみせた。
「どちらが正しいか。あとは拳で決めよう」

 そして、師弟対決が始まった。
 ……が、それはあまりに実力差のある闘いだった。
「『ビートグリップ!』」
「甘い!」
 ジンの放つすべての攻撃は、アークに完璧に読み切られてかわされ、受け流されている。
 その気になれば一撃で終わらせることもできるはずのアークだったが、大技は打たずにジンが隙を見せたところにジャブや手刀などの軽い攻撃を入れていた。
 ……まるで、弟子に組み手をしながら一手指南をしているかのように。
「終わりか、ジン?」
 アークの問いにこたえず、隙が見えたと思うやジンはがむしゃらに技を出す。
「……えい!」
 無論、それは誘いの隙である。ジンの放った手刀をアークはあっさりと受け流した。
 そして、体勢を崩しよろめくジンにアークの鋭い抜き手が入りジンは後ろに飛ばされた。
 ぐっ、と呻くジンにアークの叱咤が飛ぶ。
「どうした、こんなものか……ジン!?」
 アークの放つ一つ一つの技は軽かったが、食らった数があまりに多く。
 ジンは、肩で息をしながらようやく立っているような感じだった。
(なんとか、しなくちゃ……!)
 ジンを支えているのは、気力だけ。それも、長くはもたないであろうことが見て取れる。
 そして、そこへ……
「『怪我、治れ〜!』」
 ジンの背後で、メイミィは自分の怪我をミュートスで治療していた。
(そんなことが出来るのか……!?)
 目に見えて傷が治っていく様子を視界の端でとらえたアークはさすがに目を疑った。
「よし、ふっかあぁーつっ!」
 自然治癒では、ありえない速度で完治したメイミィはすうっと息を吸い込み、猫の耳をピンと立てて、さらなるオーラを練り上げる。
「『フレッシュメロディー!』」
 猫がひっかくような仕草で腕を振り、今までよりも強い衝撃波が、オーラの輝きとともにアークに襲いかかる。
「……くっ!」
 アークの技が及ばない後方から攻撃を受け、戸惑いながらガードするアーク。
 その隙に、ジンはずいっと間合いを詰めた。
「えいっ!」
 体当たりする勢いで突っ込みながら、腕を突き出す。
 完全に不意を打たれたアーク。ジンの大技をモロに食らって思わず後ろに下がった。
(——初めて一本とられたな)
 体勢を整えながら、アークは深呼吸してジンに対峙する。
 そして——その後はアークVSジン・メイミィの闘いとなり、割合にいい勝負が展開された。
 ジンの丁寧な攻撃と、メイミィの遠間からのミュートス。絶妙のコンビネーションの前に、さしものアークも苦戦を強いられた。
(……恐ろしく息が合っているな)
 ジンの背後で軽やかなステップを踏むメイミィを見て困惑を隠しきれないアークだったが、ややあって、ふっと息を漏らすように苦笑する。
(双子の兄妹、か……一瞬、どちらがジンだかわからなくなるな)
 アークはそんなことを考えながら、徐々にリズムを掴んでいった。
 まず手始めに、ジンの攻撃が当たらなくなっていった。
「目線の配りが雑だぞ、ジン」
 言いながら、アークはオーラを腕の周囲にたなびかせる。
「!?」
 普通の抜き手がくると思ったジン、読み違えたことを自覚した瞬間に……
「『ハウリングソード!』」
「うわっ!」
 そのオーラが剣の形をとり、ジンのガードを切り裂いた。
 たまらずジンが吹っ飛んだ先に、オーラを練り上げていたメイミィがいた。
「あ……」
 飛ばされたジンを支えたメイミィだったが、状況を把握して思わず声を出す。
 ジンがそばにいるということは……間合いの緩急をつけて攻撃していたアドバンテージが失われたと言うこと。
 当然、それを狙っていたであろうアークはすかさず間合いを潰し、オーラをさらに輝かせた。
 それは……明らかにここで終わらせる意志を込めた動きだった。

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