#210:帝都イリオン、クニスカ自宅――数週間前 - ⅲ

 なにせ皇帝陛下の勅命が下っている状況なのでそういう認識になるのは当然と言えるが、さすがに素直にクニスカは頷けないところである。
(ミュートスから見ると、ウチらがそんな連中やな)
 そんな娘の複雑な心中を他所に、父親はグッと拳を握ってみせた。
「ここは、陛下に言われるまでもなく、正義の騎士が鉄槌を下さにゃアカン」
(……そんな単純な話ちゃうねンけどな)
 娘からあいまいな相槌しか返らないことにはまるで頓着した様子もなく、両親はのんきに盛り上がる。
「鉄槌って、クニスカが使こてるのブーメランやがな」
「そんなン、オマエ……『ブーメランを下す』テ、おかしいやろ!」
 至って上機嫌に、母親が混ぜっ返して父親がツッコミを入れる。
 そんな幸せな家族の団欒は、デザートのカボチャのタルトと紅茶を堪能するまで続いたのだった。

 その後、クニスカは自室に戻った。
 窓を開け、月が出ていないせいかいつもよりもクリアーに見える星空を見上げた。

(皆、ミュートスは悪でロゴスが正義やって……思とるンやなあ)

 結局、クニスカは自分が調査したミュートスの真実を家族には語らなかった。
 自分の言葉で、あの団欒の空気を壊すことを厭ったのだった。
 目の前で復活したテルプシコルのこと……彼女の怒りを否応にも思い出す。
(でも、ムーサイの巫女の復活テ……なんで今なんやろ?)
 もちろん、自分たちが余計なことをしたからだと言う理由はある。
 でも、何か理由があるのではないかという思いも拭えない。
(それに今、モンスターが増加する理由——なんや、もお……わけわからんことばかりや)
 かねてからの情報通り、各地でのモンスター発生件数は高まっているようである。
 事実、クニスカ本人も旅路で何匹ものモンスターと遭遇して、ブーメランに物を言わせて来た。
 もちろん、一般市民がモンスターと遭遇したらただで済むわけもない。
 モンスターの発生数に比例して増加する犠牲者、帰らないミュートス狩り部隊、そしていよいよ悪化する皇帝の病状……

(帝国の闇の部分が、思いのほか濃くなってきたのかもしれへン……)

 何かしなければいけないとおもいつつ、何をしたらいいのかサッパリわからず。
 クニスカは夜空を見上げながら、母親が作ったカボチャのクッキーを口の中に放り込むのだった。

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