#211:帝都辺境、滅ぼされた隠れ里- ⅲ

 そして、陽がいい具合に傾いた頃……
「お……わったァ」
 最後の穴に土をかぶせた時、思わず独白が漏れた。
 里中に散乱したすべての遺体を埋葬したクニスカは、摘んできた花を供えて祈りを捧げた。
「安らかに眠りぃ」
 祈り終えて、拝借した鋤を元の場所に戻しながら少し考える。
(ミュートスは一人もおれへんし、結局なんの手がかりもなかったなァ)
 ふう〜と長い息をつくと、ポケットからヤニスの遺品であるグラブと遺髪を取り出した。
(お父さんはマトキサス卿かァ……)
 一拍の間。
(うわー、いーきーたーくーなーいー!)
 心中でおもいっきりジタバタしはじめた。
 マトキサス卿はいわゆる【名門貴族】であり、選民意識が極めて高い人物だった。
 息子がクニスカやマックをバカにするのは、父親の考えがそのまま反映されているのだろうということは想像に難くない。
(名門意識が服着て城内歩いてるよーな人やもンなあ……ウチみたいなのが届けに行ったら、何言われるかわかったもんやないデ)
 クニスカの家は聖イリオン帝国建国以来の歴史ある豪族である。建国の戦いで大いに武勲をたてたとして、初代皇帝クレイトス一世から領土を賜ったのだ。
 ただ、代々イリオンで皇帝に仕える名門貴族から見ると、所詮辺境の【田舎者】である。
『貴様が死ねばよかったのだ——ヤニスの代わりに!』
 位のことは普通に言われるだろう。
(……アークにつきあって貰お)
 アークの家は建国以来の武門の名門であり、皇帝陛下の覚えもめでたい実力者で、とどめに父親のレグルス卿は皇帝の片腕——帝国の双拳である。
 さしものマトキサス卿といえども、頭ごなしにやり込めようとすることはないだろう。
 そうだ、それがエェ——と、考えてから手にした遺品を見て嘆息しつつ、弱り切った表情で天を仰ぐ。
(せめて、これ以上何も起こらンといて……)
 ぽんぽん。
 首からかけた護符を、軽く叩く。
「たのんだデ、アンタ」
 穢れたものから守る——そう言って渡されたものだった。

「お前は誰だ?」

 突然、背後から声をかけられた。
 ブーメランに手をかけながら、クニスカはゆっくりと振り返った。
 そこにいたのはどこか暗い雰囲気の若者だった。
「帝国の兵を弔っている言うことは……お前も帝国の狗か?」
 言いながら、クニスカを睨みつける。
 男の瞳から青黒い炎が燃え盛っているようだ。
(なんや……ミュートスの里の生き残りかいな?)
 帝国騎士の自分を怒気をはらんだ視線で睨みつけているのもあり、ミュートスだと考えるのが自然だろう。
 相手を刺激しないようにゆっくりと背中の大きなブーメランを抜きながら、ブーメランに刻まれた騎士の紋章をかざしてみせる。
「危害を加える気はないデ。ウチは聖イリオンのフォーネス、帝国騎士クニスカや」
 その名乗りを聞いた瞬間、男の顔つきが変わった。
 ——陰惨から憤怒へと。
「そうか……」
 突如、男の周辺に霧が立ち込めた。
 それは黒く禍々しい瘴気であった。
「な……!?」
 心底驚きながら、それでも反射的にオーラをまとう。
 黒い霧の中で、男の影が異形のそれへと変化していく。

(これが……キマイラ!)

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