#213:帝都辺境、滅ぼされた隠れ里- ⅴ

 機を逃さずキマイラの顎を突き上げたクニスカだったが、渾身の力を込めたためなのか、彼女の動きが一瞬止まった。
 そして。
 それを見て、ニヤリと笑う——右腕の獅子。
 キマイラ本人と左腕の大蛇の目線はブーメランの軌道に惑わされていたが、右腕の獅子だけはその手には乗らず、クニスカが見せた一瞬の隙を見逃さなかった。
『グワオゥ!!』
 がら空きの喉笛に食いつこうと、右腕が猛然と吠える。
 状況を把握したキマイラと左腕の大蛇もほくそ笑む。
 そして、絶対に避けられないタイミングとスピードで迫る獣の牙を前にして、クニスカは不敵な笑みを浮かべ、呟いた。

「だから——どこ見とンねん?」

『ガッ!?』
 右腕の獣が、苦悶と驚きの呻き声を上げる。
 次の瞬間、急降下してきたブーメランが大口開けた獣の顔面をモロに捕らえたからである。
 クニスカ最大の技がもたらした衝撃に、キマイラはたまらず吹き飛び地面に叩きつけられた。
 そして。
 戻ってきたブーメランをパシっと掴み
「いまやっ!」
 と、クニスカは勢い良く猛ダッシュで——その場から逃げだした。

「こんなン……捕獲なんて無理ですがな、ゴート卿ーッ!」

 とか言いながら。

「貴様ッ……!」
 一瞬、意識を失い。
 次の瞬間に気がつき、立ち上がってあたりを見渡したが、すでにクニスカの姿はなかった。
 驚異的な逃げ足だったが、最大の技であるシグマリオンゼファーを単に逃げるための手段として放ったという強かさも忘れてはならない。
 鮮やかに姿を消したクニスカに向かい、キマイラの両腕が怒りの咆哮を上げる。

「絶対に、逃がさんぞ!」

 あまりの屈辱に、赤面を通り越してドス黒い顔色でキマイラは叫んだ。
 憤怒の表情に、屈辱の色が加わったのが見て取れる。
 黒い瘴気に身を包み、隠れ里を後にしたのだった。

つづく。

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