#23:神殿(七)

「相手が悪すぎや! ここは引くデ、アーク!!」
 それが聞こえているのかどうか。全く動かないアークにクニスカは必死の形相で叫んだ。
「そんなン——神様を相手にしてるのと一緒やで!!」
(——まだ、終わるわけにはいかない)
 視線の向こうには、不安げにこちらを見るジン。
 アークは、最後の一撃にかけるべく強大なオーラを練り上げた。そのオーラの圧力は、並の相手ならそれだけで動けなくなるほどの迫力を秘めていた。
(次で……一気に終わらせる!)
 そんなオーラを向けられて、テルプシコルは萎縮するどころか不快げに眉をしかめ、キッとアークを鋭い目つきで睨み付ける。
「そのような下賤なオーラを、私の前でまとうな!」
 大音声で一喝し、アークのオーラを覆い隠すほどに燃え上がる純白のオーラ。その迫力に、一瞬アークの動きが止まる。
 そこに、素早く踏み込んで間合いを密着させ、テルプシコルはアークの胸のあたりに手を当てる。そして何かを引きはがすように腕を振り払いながら。まるで言葉を叩きつけるかのようにミュートスを紡いだ。 
「『アポカリプス!』」
 ごおっ! 
 その瞬間、アークは自分の周りで激しい風が吹き抜けるように感じた。
 そして——またも、膝から崩れ落ちそうになる。

(ち、力が……抜けていく?)
 前回のミュートスが、体力を奪うものならば。
 今回のミュートスは、オーラを奪うものだった。 
(あ……あかンやン)
 クニスカ、あまりのことに言葉を失い立ち尽くした。
 アークのオーラが——すべて吹き飛ばされたのを目の当たりにしたからだ。
(こンなン……どうもでけへンがな)
 眼鏡をかけてアークをみたものの、まるで見習い騎士のような弱々しいオーラしかアークのまわりには残っていなかった。
 ロゴスの常識では、到底考えられない——そんな一撃。
「くっ……!」
 それを誰よりも痛感しているアークだったが、少ないオーラをかき集めるように言魂を放つ。
「——『ビートグリップ!』」
「当たらぬ!」
 苦し紛れに放ったアークの技を、テルプシコルは微動だにせずに言魂を込めた一喝ではじき飛ばした。体勢が崩れよろめきながらアークは苦しげな表情で、構えを取り直した。

 そして。
 テルプシコルに圧倒され苦戦するアークを、ジンはただ呆然と立ち尽くして見ていた。
(アークが……あんなに強いアークが……!?)
 どんな敵にも動じない。どんな相手でも楽に勝利を収めるだろうと信じていた。
 そんなジンにとっての英雄であり、師匠でもあるアークが——自分より小さい少女に、一撃すら入れられず。ただ、一方的にやられている。
 にわかに信じがたいこの状況を終わらせたのは……
「——もう、よい。消え失せろ、下郎」
 飽きたようなつぶやきのあとで紡がれた……テルプシコルのミュートスだった。
「『ブレス!』」
 腕を振るでもなく、パンチを打つでもなく。言魂を込めて叫んだだけ。
 ——ただ、それだけのことで。
「ぐうっ……!?」
 さらに二メーターほど、アークははじき飛ばされた。
 そして、今度こそ決め手になったものか。
 アークは起き上がらず、地面に倒れ込み動かなくなった。

「アーク!?」
 声を上げて、ジンはアークの元に駆け寄ろうとした。
 そして、次の瞬間。
「……」
 まるで、糸が切れた操り人形のように。テルプシコルが力尽きて、ゆっくりと倒れる。
「わ!?」
 驚きながら、ジンはすかさずテルプシコルを受け止めた。

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