#24:神殿(八)

 嘘みたいに軽いその身体は少し熱を帯びており、顔をのぞき込むと苦しげな表情で気を失っているのが分かる。
(こんな小さいからだで……)
 すでに光り輝くオーラのドレスは消え、目覚めたときの姿になっていた。その白い衣服が汚れぬように。ジンはテルプシコルをそっと地面に横たえる。
 そこに、メイミィも慌てて走ってきた。額に手を当てて、難しい表情でテルプシコルを見る。
 そして、ジンが顔を上げてアークを見たときには、すでにクニスカが手際よくアークの様子を見ているところだった。クニスカは脈拍など測って、問題なしと頷く。
 そして、クニスカはため息をつくと、厳しい表情で眼鏡を額に乗せながら、ジンの方を見ずに言った。
「ジン、逃げるンや」
「え?」
 まったく予想外の一言に、ジンは呆然とクニスカを見た。
 気を失って倒れるアークを見ながら、クニスカはジンに語った。
「アンタ、アークが『こっちに来い』言うてるのに……結局、来ぃひんかったやろ?」
 一拍の間。驚きに目を見開くジンに
「それやったら——『ミュートスを選んだ』っちうコトになるやンか」
 と、クニスカはアークの騎士の紋章を隠すように、マントをかけなおす。
 そして、もう一回ため息をついて、クニスカは呟くように哀しげな口調でジンに告げた。

「ジン……アンタ、アークの敵になってしもたンや」

(ち、違……)
 血の気がさあっと引くのが自分でも分かった。
(確かに——あのとき僕は、妹と姫様を選んだ……のかも、しれない) 
 何か言わなければ。でも……一体、何を言うことができるのか?
 後先を考えずに、目の前の現象にぶつかった結果が……この状況。
 あまりといえばあまりな事実を突きつけられ。答えが出ないまま
(でも、僕は……アークと……その、アークを……)
 ジンの胸中に、ただ言葉だけが混乱したままぐるぐると回っている。
 そんなジンの様子を感じ取ったクニスカは少し寂しげな瞳で、でも厳しい表情で。なおも顔を上げずに——ジンの顔を見ないままで言う。
「アークはウチが連れて行く。今のうち逃げときや」
 この話はこれで終わり。
 ——そんな口調だった。

 そして、どうやら自分が取り返しのつかない選択をしてしまったことを悟り。ジンは意識を失い倒れているアークを寂しげに見ると。
「アーク……ごめん」
 と、静かに目を伏せた。
 クニスカは何も語らず。ただ、黙って下を向いたままだった。
 そして、そんなジンの後ろでリボンを結び直し、かごを拾い上げたメイミィは、軽くジンの肩に手を置いて
「ジン、行こう」
 と、言いづらそうに告げた。
 ジン、少し肩をふるわせた後で伏し目がちに頷くと
「うん……わかった」
 と、地面に横たえたテルプシコルを背負い立ち上がる。
 テルプシコルは背負われても目を覚まさず、ただ苦しげな息を漏らした。
「ついてきて」
 そのまま、無言で森の中へと歩き出すメイミィ。
 その後を、まだ混乱さめやらぬ表情のまま続くジン。
 その二人……いや、背負われているテルプシコルを合わせて三人の背中を、クニスカは黙って見送ったのだった。

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