第2章:旅立ち

#25:森の中

「……大丈夫かな?」
 テルプシコルを背負ったまま、ジンは立ち止まった。
 背中のテルプシコルからは、まるで火傷するのではないかと思えるほどの高熱が伝わってくる。そればかりではなく、苦しげな吐息がダイレクトに耳に届き、背負っているジンとしては気が気ではない。
(――死んじゃうんじゃ?)
 どうしたらいいのかわからず、とりあえずやわらかそうな草の上にテルプシコルを横たえる。
 これほどの熱を出しているのにテルプシコルの顔は青く、じっとりと汗をかいている。
 普通に考えて、結構まずい状態といえるだろう。
「すごい熱だよ……」
 テルプシコルの額にこつん、と額をつけて熱を測ったメイミィは、相当に熱があるのを確認したのか、焦った表情でテルプシコルの額ににじんだ汗を拭いた。
 そして、目を閉じるとすうっと息を吸い込みオーラをまとって
「『お願い、良くなって!』」
 と。祈るような癒しの言魂を紡ぎ出す。
 テルプシコルのからだが……心なしか弱々しく輝いた。
 そして。おそるおそるテルプシコルの様子をうかがったメイミィ。その表情がすぐに曇る。
「どうしよう……治らないよ」
 さっきも癒しをかけたからかなあと、メイミィはさらに焦った表情でジンの顔を見る。
 癒しの言魂のおかげか熱は少し引いたものの、依然として苦しげに横になっているテルプシコルがそこにいた。
「……とにかく、いったんわたしの家に連れて行こう」
 メイミィは目についたところに生えていたカモミールを取り急ぎ摘んで立ち上がり、草の上に横たわっているテルプシコルを沈痛な面持ちで見た。
「ベッドもあるし、もう少し落ち着いて治療できるかも……」
 すこし容態が落ち着いてる今のうちに、とメイミィはジンと自分の荷物を担ぐ。
 いずれにせよ、いつまでも草の上に寝かせて置くというわけにはいかないと、頷いたジンはテルプシコルを背負って立ち上がった。
 そして、これだけドタバタしてもテルプシコルは目を覚まさない。本格的に意識を失っている証拠で、実に予断を許さない状況だといえよう。
「じゃあ、行こう」
 相変わらず苦しげな呼吸を耳元で聞きながら、ジンは歩きはじめた。

(やっぱり……かなり無理をしたのかな?)
 何らかの理由で長く眠っていたのが、いきなり全力で闘ったせいで無理がたたったのだろうと。そして――無理をさせた原因は少なからず自分にあるのだろうと考え、ジンは思わずため息をついた。
 そんなジンを従えて、メイミィは道ではなく森の木々の間を抜けて進んでいく。どこへ向かっているのかは道すら無い森の中、皆目見当もつかなかったが。実にしっかりした足どりでメイミィは下生えを踏みしだきながら歩いていた。
 そして、とある茂みに突き当たる。メイミィは茂みの中に溶け込むようにするっと入り込み、ジンをぎょっとさせた。
 ジンが近づいてよく見てみると。隙間もなく茂っていると思われた灌木の茂みに人ひとり入れるほどの隙間があった。背負っているテルプシコルを枝に引っかけないように、ジンも気をつけて茂みに入り込む。その茂みは十メーターも行かないうちに抜けることができて、その向こうには細い獣道が延びていた。
 メイミィはジンたちが茂みを抜けるのを確認して歩き始める。
 その間、終始無言。押し黙ったままメイミィは進んでいく。
 そんなメイミィの様子を、先ほどまで盛大な口げんかを展開していたジンは不思議な表情で眺めていた。
(……まるで、誰かに見つからないようにしてるみたいだ)
 ジンが首をかしげるその前で、メイミィは再び茂みに入り込んで行く。
 この茂みの方が前よりも狭いうえにルートがジグザグで、ジンはメイミィの背中を見失わないように、テルプシコルを枝に引っかけないようにと必死について行った。
 そして、その茂みを抜けると……小さな里の風景が広がっていた。
「ついたよ、ジン」
 メイミィが振り返って、ニッコリと笑う。
 ここまで来たらしゃべっても良い、と言うことなのだろうか。メイミィはふうっと疲れたようなため息をついてジンの顔を見る。
「じゃあ、私の家に行こ」
 ようやく安心したものか、メイミィはほっとした顔で歩き出す。
 そして、ジンはまだ気を失ったままのテルプシコルを背負い、なんとも不安げな表情で頷いたのだった。

公開 : (1762文字)

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