#27:アルコン邸(一)

 家の中に入ったメイミィは、ジンを部屋の隅に手招きした。
「とりあえず、わたしのベッドに寝かせよう」
 特に異議もなく。メイミィに案内されるままに寝室とおぼしき部屋に入ったジン。質素な、しかし寝心地の良さそうな寝台にテルプシコルを横たえた。
 そして、メイミィは手際よくテルプシコルの靴を脱がせたり、服を緩めて楽にしたり――元々ゆったりめのサイズとデザインではあったが――未だ苦しむテルプシコルを介抱する。
 その様子を黙って見ていたアルコンはメイミィに向かって言った。
「ずいぶん変わった薬草だな、メイミィ」
 苦笑いしながら、とりあえずボケるアルコンに
「ごめん……薬草、忘れてた」
 まずい、と言う表情でメイミィはなんともバツが悪そうにアルコンにカゴを渡す。
「とりあえず、カモミール摘んできたんだけど」
 この子、熱があるからと言うメイミィにアルコンはなおも苦笑したままカモミールが入っているカゴを受け取る。
「カモミールは、乾燥させねば使えないぞ」
 ありゃ、と声を漏らすメイミィと所在なげに立つジンをアルコンはしげしげと見比べた。
「……そうか、戻ってきたか」
 と、頷いた後に、状況に今ひとつついて来られていない風のジンにアルコンは尋ねた。
「テオドールはどうした?」
 その問いを聞いたジンは、ちょっと眼を丸くした後で答える。
「父さんは、五年前に病で……」
 そこで口よどむジン。アルコン、それを聞いて首を振りながら嘆息した。
「メリナも早くに亡くなった……仲の良い夫婦だったからな」
 話の流れから、きっと母親の名前なんだろうと。ジンは少し寂しげな表情になる。
 そして、アルコンはテルプシコルを介抱し終えたメイミィに向かって
「さて……何があったのか教えてくれ、メイミィ」
 と、ずいぶん使い込まれた年代物の椅子に腰掛けながら尋ねた。
 尋ねられたメイミィは、うーんと考えながらも順を追って話し出す。
「まず……泉に行ったら、森の中からジンが出てきて……」
 そう言って、メイミィはジンの方をちらっと見る。
「自分の幽霊だーって思ったから、ミュートスで追い返そうとしたんだけど……幽霊じゃなくてジンだったから、泉にジンを落としちゃって」
 それを聞いたアルコン、悪戯っぽい感じにニヤリと笑った。
「まだ信じてたのか?」
「爺様が怖く話すんだもん」
 それを聞き苦笑するアルコンをよそに、メイミィはさらに話し続けた。
「で、ジンと一緒にいた帝国騎士……? の人達も出てきて」
 予想もしない登場人物に、アルコンは目を見開いて驚いた。
「それは……後をつけられたりしなかっただろうな?」
「この子がやっつけたから、大丈夫だよ」
 メイミィが指さす先で眠っているテルプシコルを、丸い目で見るアルコン。
 話がまったく見えてなさげなアルコンを見て、メイミィはどう話そかな、とちょっと考えながらジンの方を向いた。
「で……ジンとケンカしたんだよね?」
「うん、僕が着替えてきた後でね」
 頷いて同意するジンにメイミィもうんうんと頷いてみせる。
「そうそう。そのときに『ばかー!』ってふたりで叫んだら、神殿からものすごい音がして」
「神殿に行ったら、扉が開くようになってたんだよね」
 なんだか世間話のように『ありえない』話をしている二人をアルコンは唖然として見た。
 そして、メイミィはまだ目を覚まさないテルプシコルに視線を移した。
「で、神殿の中でこの子が眠ってて……ちょっとしたら起きたけど、すぐに倒れちゃったから癒しの言魂を使ったんだよ」
 はあ~。
 そのメイミィの話を聞いて、少し芝居がかった風にアルコンは嘆息した。
「帝国騎士の前でミュートスを使ったのか?」
 う……、と。その後で急に態度を硬化させた『帝国騎士』のことを思い出し、さすがにバツの悪そうな顔になるメイミィだったが。
「……だって、必死だったんだもん」
 と、口の中でもごもごと反論した。
 それから、やおら話題を変えるべくテルプシコルを指さして、メイミィは明るく元気に話しだした。
「そしたら、この子が起き上がって! 騎士の人たちを見て怒ったの」
「怒った?」
 ベッドの上で横になっている『小さな子』が帝国騎士に対し怒る理由が皆目思い浮かばず、アルコンは怪訝そうな表情になる。そんなアルコンに興奮した口調でメイミィは言った。
「そう、騎士の人に怒ったの! 『ムーサイの巫女テルプシコルだっ!』って!」

公開 : (1810文字)

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