#28:アルコン邸(二)

「――なんと!?」
 アルコン、予想外の言葉に目を見開く。
 メイミィ、なおもノリノリで説明する。
「その後、わたしとジンが騎士を相手に闘って姫様を守ってぇ!」
 それを聞いたジンだったが、なんとなしに腑に落ちない表情になった。
(全然、守れてなかったよね?)
 自分のことで精一杯だったような、と釈然としない表情になるジンのことはこの際綺麗に無視をして、メイミィはきわめて上機嫌に
「そしたら、途中で姫様が騎士をアッサリやっつけて。格好良かったよお!」
 と、とりとめもない報告を終了した。
「それは……ムーサイの巫女であれば、そうだろう」
 そして、報告を受けたアルコンはあまりの話に、驚きながらも頷いてみせる。
「確かに、我々ミュートスの窮状を救うため。古代の巫女が眠りから目覚めるという噂は聞いていた」
 え、そうなの? と、きょとんとするメイミィに苦笑してみせるアルコン。
「聞いていたが、十年おきくらいに流れる噂の定番だからな。どうせ今回も噂でおしまいだろうと、なんとなしに聞き流してしまっていたのだが」
 ふう、と。アルコンは息をついて、眠るテルプシコルを眺めつつ
「――よもや、こんな里のすぐ近くで目覚めるとはな」
 と、シニカルに肩をすくめる。
 そして、メイミィ。ようやく事態を把握したアルコンに言う。
「で、その後で姫様倒れちゃって。凄い熱なの!」
 いきなりの話にアルコンの目が点になる。メイミィは拝むようにアルコンを上目使いで見た。
「わたしだけじゃ治しきれなかったから、爺様にもお願いしようと思って連れてきたんだけど」
 それを聞くとアルコンもさすがにあきれ顔になる。
「そういうことははじめに言うものだぞ、メイミィ」
 テルプシコルの額に手を乗せ、熱をはかりながらアルコンは言う。
「熱があるうちは良いが、冷たくなったらどうにもならん」
 そりゃそーだね~と苦笑するメイミィは捨ておき。苦しげに眠るテルプシコルを見て、顔を曇らせるアルコン。
「とはいえ……メイミィに治せなんだものを、ワシが治しきれるかどうか……」
 そこまで言って、何かを思いついたような表情になったアルコンは、ふとメイミィを見た。
「メイミィ……リボンはどうした?」
「あ」
 言われたメイミィ、首に巻いたリボンに手をやり目を丸くした。
「外すの忘れてた」
 あちゃ、と。メイミィはなんともバツの悪そうな顔になる。
 それを見て、情けない顔をしつつアルコンは深いため息をついた。
「言魂抑えをしたままミュートスを紡げば、普通気がつくものだぞ」
「だって……紡げたもん」
 うつむき加減に言うメイミィだったが、それを聞いて苦笑しながら
「普通は完全に抑え込むから気がつくが……人並み外れた素質というのも考えものだな」
 と、アルコンはぼやく。その横で当のメイミィはてへへと笑っていた。
 そして、深く息を吸い込み。静かに、そして力強く。アルコンはミュートスを紡ぎ出した。
「『つつがなく、癒えよ』」
 ふわっと、柔らかくテルプシコルを光が包み込む。
 そして、光が収まり。テルプシコルの寝顔が目に見えて安らかなものになった。
「大丈夫そうだな」
 その様子を満足げにみたアルコン。そっとテルプシコルの掛け布団をかけ直した。
 穏やかな寝息を立て始めたテルプシコルを起こさないように、一同は寝室を後にした。
 そして、居間へと移動した三人。誰ともなしにソファに腰掛けた。その途端にジンは全身からずん、と力が抜けるような感じになり、思いのほか疲れていたことを自覚して、浅く長めのため息を漏らした。
 そんなジンを見ながら、ふうっと息をついたアルコンがゆっくりと話し始める。
「さて……聞きたいことがあるが、何を聞けばよいかわからんという顔をしているな」
 いきなり、そんな感じに切り出されて驚いたジンだったが。それは確かにその通りだったので、アルコンに向かって頷いてみせた。
 それを受けて、アルコンは遠い目になりゆっくりと語り出す。
「ことの発端は十五年前。細工物職人のテオドール……テオと里の商人の娘メリナが結婚し、その二人の間に双子が生まれたことだ」
 すっと。
 猫を思わせるようなしなやかな身のこなしで、音もなく。メイミィはジンの横に座った。
 それをちらっと見たアルコン。ゆっくりと、はっきりと語り続ける。
「男女の双子だった。その子たちはジンとメイミィと名付けられた」
 状況から、そうだろうと確信をしていた。
 だが。往時を知るアルコンに改めて説明されて、ジンとメイミィは驚きにも似た不思議な感覚を味わった。
 そんな二人の様子には頓着する様子もなく、アルコンは少し眉根に皺を寄せる。
「そこで問題になったのが、この里に古くから伝わる言葉だ」

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