#29:アルコン邸(三)

「言葉?」
 初めて聞く話に、首をかしげるメイミィにアルコンはうむ、と頷いてみせた。
「『双子が生まれたら里で一緒に育ててはいけない。必ずどちらかを里の外に出して、別々に育てなければならない』」
 え……、と。絶句するメイミィ。その横で、口をつぐんで話を聞くジン。
 そんな二人を見渡して、アルコンは少し苦しげな表情になる。
「とはいえ、愛しあう二人の間に生まれたかわいい子供達だ。ワシらは悩んだが……結局、テオがジン――お前を連れて里から出ると言うことになった」
 ジンは、少し目を見開き。行き場のない不条理感を込めてアルコンを見た。
 反射的にジンの目線を外したアルコンは、小さくため息をつくと
「テオは元々里の人間では無かったからな、やむを得なかった……」
 と言い、今度はジンの顔をしっかりと見た。
「そして、テオはお前を連れて里を出た後は――約束通り、一度も里に帰ることは無かった」
 そして。はあっと、今度は聞こえるような大きさでアルコンはため息をついた。
 その後で、追想するような表情で向い側に座っているメイミィを見た。
「メリナはメイミィが五つの折、病で亡くなってな。それからメイミィはこのワシが育てた」
 一拍おいて、アルコンはふっと寂しげに微笑んだ。
「そのころは婆さんもいたしな」
 と呟くように言った。故人を思い出しているのか、うつむき加減でアルコンの話を聞くメイミィをジンは横目で見やった。
 母と過ごしていたメイミィに無意識に母親の面影を求めたのだろうか。
 だが、よくよく考えると自分と同じ顔なことに気がついてジンは落胆のため息をつく。
 微妙に失礼な話である。
「今にして思えば、何故双子はダメなのかが分らなかったが……」
 そんなジンの様子は気にせず、アルコンは考え込むような表情で天井を見上げた。
「なるほど、遺跡の門を開く鍵になっていたとはな」
 これもなにかの運命か、と独りごち。アルコンは二人を……再開を果たした双子を見た。
 神妙な顔をして座っている二人は、改めてアルコンを瞠目させたほど良く似ていた。

 そして、アルコンはゆっくりと立ち上がり、隣室で眠るテルプシコルを眺めた。
 未だに目覚める気配はなく、すうすうと寝息を立てて眠っている。
「とりあえず、姫様が起きるまで休んでいるといい。ワシも仕事を片付けてしまうのでな」
 そう言うと、アルコンは仕事場へと消えていった。
 残されたジンとメイミィはなんとなく無口のまま、ぽつーんとソファに並んで座っていた。
 静かに何かを思い詰めたような顔でうつむいていたジンはややあってゆっくりと顔を上げた。 そして、隣に座っているメイミィにゆっくりと向き直った。
「メイミィ……頼みがあるんだ」
「頼み……何?」
 くるっとした目を丸くしてジンに向き直るメイミィに
「母さんの……お墓があるのなら、行きたいんだけど」
 そんな『頼み』を聞いてさらに目を丸くしたメイミィだったが、少し考えてから
「……うん、じゃあ行こうか」
 と、にっこりと微笑んだ。

 そして、二人は立ち上がり外へ出る。
 出際に振り返り、ジンはテルプシコルを見た。
 全く目を覚ますそぶりすら見せずに深い眠りについているのを見て、ジンはそっと扉を閉めるのだった。

公開 : (1336文字)

ページトップ