#3:序章(三)

 へっ、と鼻で笑う盗賊たち。じゃりっと砂利を鳴らして(砂利だけに)包囲を狭める。
(もう少し詰めれば、一斉に飛びかかって捕まえられるぞ)
(勢い余って、崖から落ちるンじゃねェぞ)
 そんなことをお互いに目配せでコンタクトを取っている盗賊たちの背後から……突然に

「——子供を(なぶ)って楽しいのか?」

 という声が聞こえた。
 一人の盗賊がその声に振り返った刹那【ドカッ!】と言う音とともに、二メーターほど吹き飛んで気を失い動かなくなる。
 理由はすぐ分かった——背後から現れた男に、力一杯蹴り飛ばされたのだ。
「な……なんだ、テメェは!?」
 突然の『襲撃』に驚きながらも振り返り、剣を抜いて構える盗賊たち。
 ジンも、目を見開いて『襲撃者』の姿を見る。そこにいたのは、旅人用の重い頑丈なマントを羽織った一人の若い戦士だった。
「人に名を尋ねるときは、自分から名乗るものだ」
 年の頃は少年と青年の間といったところだろうか。年齢の割に、ずいぶんと落ち着き払った声でそう言った男は、重そうなマントを跳ね上げもせずに握った拳に息を吹きかける。すると不思議なことに、その拳がぽおっと淡く輝いた。
「野郎っ!」
 余裕の態度に腹を立てた盗賊のひとりが、構えた剣を大きく振りかぶるや問答無用とばかりに袈裟懸けに斬りかかった。男はそれを避けるそぶりすら見せず、剣を無造作に腕で受け払う。
「な!? け、剣を素手で……!?」
 謎の男のあり得ない行動に、盗賊たちはただ驚愕した。その様子にはまるで頓着をせず男はずいっと間合いを詰めて
「『ビートグリップ!』」
 と、叫びながら斬りかかってきた盗賊を思いっきり殴り飛ばした。
 殴られた盗賊はかなり大柄な筋肉番長で、比較的スマートな体型の男と比べて体格差は著しかったのだが……ただの一撃で、白目をむいてその場に膝から崩れ落ちる。
 残るは三人。盗賊たちは、半ば無意識のうちにじりじりと後退を始める。
「どうなって、やがる……?」
 目の前の男のデタラメな強さに、呆然とつぶやくヒゲの盗賊をじろりと見やって。
言魂ことだま使いは初めてか?」
 と、男は尋ねた。
「あ、ああ……」
 と。その問いに、怯えて頷く盗賊に
「オーラをまとった言魂使いに、貴様らの剣など通じない」
 と、男はこともなげに言い放つ。ハッタリではないことは、たった今証明済みである。
 男はジンを後ろにかばい、輝く拳をギュッと握り込み盗賊たちに名乗った。

「俺は聖イリオンのフォーネス。帝国騎士アークトゥルス」

 それを聞いた盗賊、驚愕の色を顔に浮かべて一斉に目を見開いた。
「騎士……だと?」
「あ……『熱き氷のアークトゥルス』!!」
「こ、こんなとこに……いるはずが!?」
 そんな盗賊たちに、男は光——オーラをまとったまま一歩前に出ると。
「俺が嘘を言っていると思うのなら、かかってこい」
 と。今度はマントを跳ね上げて、本気の構えを取ってみせた。
 そしてマントを跳ね上げたことにより。男の胸元に輝く紋章が露わになる。
 その紋章の名は『トリオン』——聖イリオン帝国騎士団の紋章であった。
 さながら一枚の大きな岩のような全く隙のない男の構えを前にして動くに動けず、筑波山のガマのごとくだらだらと脂汗を流す盗賊たち。
 男は、そんな盗賊たちを眼光鋭く睨み付け、一言こう告げた。
「——行け」
 言われた盗賊、これ幸いと這々の体で逃げ出した。
 その逃げ足はやたら速く、気を失った仲間を抱えているにもかかわらず、あっという間にその姿は見えなくなった。

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