#31:花畑(二)

 いろいろな想いが巡り戸惑っている風のジンに、メイミィはおどけたように苦笑してみせる。
「お母さんもせっかちだよね……待っていれば、ジンがここに来てくれたのにね」
 一拍の間を空けて、メイミィは柔らかく微笑んだ
「ひょっとして……お母さんが、ジンを連れてきてくれたのかな?」
 問いかけられたジン……静かに目を閉じる。

 今まで、母はいないものだと思っていた。
 そのことが、哀しいと感じたこともなかった。
 けれど今は――母の存在を、切ないほどに感じていた。

「そうだね……うん。そうだね……」
 そう言いながら。ジンはメイミィの手からジョウロを受け取る。
 そして、ベゴニアの花々に水をやりながら、ジンは静かに笑顔を見せた。
「ありがとう、お母さん」
 そんなジンを見て、にっこりと笑うメイミィ。
 ややあって、ジンはメイミィにジョウロを返しながら言う。
「そろそろ、もどろうか?」
 メイミィはジョウロを受け取りながら、少し考えた後で頷いた。
「そうだね。お姫様、もう起きるかもね」
 ジョウロの中身が空になっているのを確認し、メイミィは村に向けてきびすを返す。
 そんなメイミィの背中に。ジンはゆっくりと話しかけた。
「いつか……父さんのお墓に行こう、メイミィ」
「え?」
 その言葉に、目を丸くして振り返るメイミィ。
 風に揺れるベゴニアを見ながら、ジンは少しバツの悪そうな顔を見せる。
「僕も、もう……何年も行っていないから」
「お父さん、かあ……」
 ちょっとうれしそうに、少し寂しげにはにかみながら。
 ジンの顔を、メイミィは好奇心一杯の目でのぞき込んだ。
「お墓はどんなところにあるの?」
「ここから南に旅したところの……海のそばの森に父さんは眠ってるんだ」
 そう言って、ジンは遠い目になる。
 アークに連れられて、一体どれほどの旅をしてきたのだろう……
 メイミィはそんなジンの目線をなんとなしに追いながら。
「海、かあ……」
 と。鬱蒼と茂る森を見ながら、少し苦笑混じりに言った。
「お話では聞いたことあるけど……見たことないなあ」
 里を出たことがないから、と。メイミィは笑う。
「そうなんだ……僕は、ずっと旅をしていたから」
 『海を見たことがない』と言うことがあるなどとは思いもよらず、ジンは目を丸くした。
 メイミィはそんなジンにすっと手を差し出した。
「じゃあ……連れて行ってくれる?」
「うん、わかったよ」
 差し出された手をジンはしっかりと握り返す。
 ややあって。どちらともなくアハハ、と笑った。

 そして、二人は肩を並べ。森を後にした。
 ベゴニアの花々は、まるで軽く手を振るかのように風になびいて。二人を見送ったのだった。

公開 : (1106文字)

ページトップ