#32:再び、アルコン邸(一)

 二人がアルコンの家に戻ると、腰を落ち着ける間もなく寝室の方から、ごそごそと寝返りを打つような音が聞こえてきた。
「あ……起きたかな?」
 独りごちながら、メイミィは寝室へと歩いていく。ジンとアルコンもそのあとに続いた。
 テルプシコルは布団の中でううん、と軽く吐息を漏らしつつ寝返りを打っていたが。ややあって、ゆっくりと目を開いた。
「……?」
 存外、寝起きが悪いのか。ベッドで横になったままのテルプシコルはとろんとした目で自分の顔をのぞき込む三人の顔をぽーっと眺めた。
 そして、少しの間。
 ハッと、何かに気がついたような、警戒したような表情になるテルプシコルに、メイミィはにっこりと笑いかける。
「大丈夫だよ、姫様。ここはわたしの家だから」
 ふう、と。軽くため息をついて、ゆっくりと身を起こしたテルプシコル。めまいでも感じたものか軽く頭を振る。その後で、少し心配げな表情になっているメイミィを見た。
「あの後のことを覚えてはいないが、ずいぶんと世話になったようだな。ありがとう」
 薄く微笑みながら頭を下げたテルプシコルだったが
「…………」
 頭を下げたままの体勢でなにやら複雑な表情のままじいっと、己が手を見つめる――そんな彼女を不思議そうに見たメイミィは首をかしげながら
「どうしたの?」
 と、おずおずと尋ねた。
 そして、なおも複雑な――というよりも深刻な表情のまま、テルプシコルはメイミィに言う。
「……すまぬが、鏡を見せては貰えぬか?」
 はい、とメイミィは机に置いてあった手鏡を差し出した。テルプシコルはその手鏡を受け取らずに、おそるおそるのぞき込む。そして、次の瞬間――
「なんだ、これは!?」
 と、目を見開いて、驚いたような怒ったような大声を上げた。
「ど、どうしたの?」
 肩をぴくんと跳ね上げて、鏡を持ったままびっくりするメイミィ。背後の二人も突然の大声に、上体をのけぞらせつつ驚きの表情を見せる。
 そんな三人のリアクションにかまう様子も余裕もなく。なおも驚愕の表情のテルプシコルは一挙動でベッドから立ち上がった。

「――なぜ、子供になっているのだ!?」

 言っていることが理解できずに、ジンとメイミィは困惑の表情で顔を見合わせた。その横でアルコンがテルプシコルに尋ねる。
「失礼ながら、姫様はおいくつなのかな?」
 しばしの間。
 テルプシコルはうめくように答えた。
「……十九歳だ」

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