#33:再び、アルコン邸(二)

 きょとん、と。音が聞こえるかのように一同は目を点にした。そして、呆然と立ち尽くしているテルプシコルをこれまた呆然と見た。
(――どう見ても十歳くらいにしか見えない、よね?)
 ジンがそんなことを考えている間、テルプシコルは自分の身体を、信じられない風にぽんぽんと叩きながらチェックをしていた。
「この服も、長袖になってしまっている」
 左手で右の袖口をつまみながら言ったテルプシコルは少しして、複雑な表情でうつむいた。
「長袖になったのではなく、身体が縮んだのか」
 言われてみると。
 ゆったりした服、というよりも。明らかにサイズの大きい服を着ている風だった。
 ――まるで、小学生の娘が戯れに母親の服を着たかの如く。
 テルプシコルはしばらくうつむいた後で大きく息を吐いた。
「……眠っている間、何かあったものと見えるな」
 少し沈思して、ブンブンと激しく頭を振ったテルプシコルだったが、事態の異常さを認識したような不安げな表情で、目の前にいる三人を見た。
「そもそも、自分がどれほど眠っていたのか分らぬ。あのカルデアの男が言っていた『皇帝陛下』とは、なんだ?『聖イリオン』なる国名も初めて聞いた」
 独白のように、呟くように。自分の考えを整理しながら、誰にともなく疑問を発する。
「今、何年だ?」
 えっと、と。とっさに出てこない様子の双子の代わりに、アルコンがそれに答える。
「ロゴス暦二九九年だが……そうではなく、イリオン暦を知りたいのだろう?」
「……よく分らんが、年号だ」
 不安げな表情を見せるテルプシコルにアルコンは、少し同情の色を浮かべて年号を告げた。
「今年は八二五年だ」
「馬鹿な……!」
 それを聞いて、テルプシコルはまるで雷に打たれたかのように、硬直した。
 顔には驚愕の表情を浮かべ、信じられぬようにゆっくりと首を横に振る。

「あのときは……五二五年だったのだぞ!?」

 テルプシコルが眠っていた時間は、何とも簡単な引き算で導き出される。
 八二五引く、五二五は――
「――さんびゃくねん?」
 その計算結果がどうしても信じられずに、メイミィは自信なさげに呟く。
「ずいぶんと、長く眠られていたようだ」
 アルコンのその言葉には答えず
「……私はカルデアの連中にイリオンの王城が落とされた所までしか覚えておらぬのだ」
 と、テルプシコルは愕然と立ち尽くしたまま、誰にともなく話し始めた。
 その話は、三人を瞠目させるのに十分な内容だった……

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