#37:アルコン邸、居間 (二)

 この老人の性格を良く知るメイミィはその答えを聞いて一瞬動きが止まった。カップの中で茶に浸かったビスケットが小さな波紋を作る。
「適当に……?」
「ああ」
 なんてことは無いさ、といったような風情でアルコンは付け加えた。
「相手の質問を、すべてメイミィの下着についての話で答えた」
 ちゃぽん。
 メイミィの指から落っこちたビスケットが、お茶の上にぷかぷかと浮かんでいた。
「……下着?」
 聞き違いかな、と言う表情でジンは尋ねた。
 そんなジンに向かって、アルコンはティーカップを手にしながら
「ああ、下着だ。どんな質問も、すべてな」
 と、それは自信たっぷりな口調で言い切ってみせた。
 目を点にして絶句したジンにかわり、ちょっとジト目のテルプシコルが怪訝そうに尋ねた。
「そんな話で……上手くごまかせたのか?」
 アルコンはその質問を聞いて、小粋にウインクをしてみせる。
「楽勝だ」
 ――なんといったらいいのやら?
 そんな沈黙が流れた。
 そして、その沈黙を破ったのは……

「楽勝とかじゃないでしょ、このエロ爺さまあぁぁっっ!!」

 その時、話題の中心だった下着の中の人――メイミィの叫び声だった。
 半べそを越えて三分の二べそくらいだった。
「酷い言われ様だな」
 孫娘同然に育ててきたメイミィにエロ爺さま認定されたアルコンは自分のことはひとまず棚に上げて不平を鳴らしてみせた。メイミィは、うーっと呻いてからアルコンに詰め寄る。
「いったい、どんな話をしたの!?」
「どんな、と言われてもな。思うまま、想像で適当に話をしただけだ」
 アルコンのその答えを聞いて、メイミィはちょっと落ち着いた感じではあっとため息をつく。
「まあ、それもそうだろうな」
 そう言って頷くテルプシコル。ジンも苦笑いしながらカップに口を付ける。
 そして。そんな様子を気にせずに、アルコンは補足説明をしてみせた。

「『爺さんの里には男は何人くらいいるんだい?』
 『さあな。――それより、孫娘のパンティの話をしようか。今、白地に青のストライプと
  真っ白を三枚づつ持っている様だが。何故か一枚だけ黒いパンティを持っているんだよ。
  一体どうして一枚だけ黒いのかサッパリわからんのだが、あんたには分かるか?』」

 カップを口に運んだまま、ジンの動きが止まった。
 テルプシコルも皿の上のミントケーキをつまんだまま、ぴたっとフリーズする。
 そのなんとも言えないテルプシコルとジンの複雑な表情をアルコンは実に満足そうに眺め、さわやかな微笑みさえ浮かべて、こう締めくくった。
「こんな感じだよ」
 一同、唖然。
 ジンもテルプシコルも、なんと言って良いものやら言葉を失い沈黙した。
 ――ただし、今度の沈黙は短かった。

「当たってる!? それ、当たってるっ!! 枚数も色も内訳も、完璧に当たってるうぅぅっっ!!」

 それはもお、勢いよく。
 ジンがお茶を吹き出した。

 そして、気管に入ったのかエーホエホと咳き込むジンと、背中をさすって介抱しているテルプシコルの様子には全く目もくれず。メイミィは追求を開始した。
「なんで爺さまが私の下着のこと知ってるの!? っていうか、いつ見たのっ!?」
 テーブルを台ふきんで拭くテルプシコルに手を挙げて礼をしながら、アルコンは涙目のメイミィの質問にゆっくりと答えた。
「見たことはない。が、意志や記憶に関係なく真実を語ることもあるのがミュートスだからな」
 ちょっとオシャレにウインクなんかしちゃってるアルコンに、メイミィは言った。

「語らないで、そんなことーーーっっっ!!」

 正当な要求だった。

 そして、メイミィの反応を見てひとしきり笑ったアルコン。おいしそうに紅茶をすすり、シニカルな表情でテルプシコルの顔を見た。
「かくして、我らミュートスはこうした隠れ里に住まわねばならん――人目を避けて隠れ住まねばならん存在になって久しいのだ」

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