#41:アルコン邸、居間 (六)

「――さて。これからどうされるのだ巫女様?」
 しみじみと。
 そんな感じの口調で自然に水を向けられたテルプシコルは少し思案した後で、膝の上で組んだ――ずいぶんと小さくなった手をじっと見つめた。
「こうして眠りから覚めたのも、何か為すべきことがあるからかも知れぬ」
 考えをまとめるように。独白のように呟いて。
 ぐっと、何かを決意したような表情でテルプシコルはアルコンに向き直った。
「私はミュートスの里を巡り、ミュートスの復権のために旅をすることにしよう」
 それを聞いたジンとメイミィ。目を丸くしてテルプシコルを見た。
 テルプシコルはアルコンに、と言うよりは自分に言い聞かせるような口調でこう語った。
「たとえ王族は絶え果てたとしても。王家にゆかりの家系は残っているかも知れないからな」
 アルコン卿の様にな、と。
 そう言ってテルプシコルは居住まいを正して、深々と頭を下げた。
「世話になった。――が、このまま私がいても迷惑だろう。明朝たたせて貰う」
 そこまで一気に語ったテルプシコルを、アルコンはずいぶんと難しい顔で見る。
「……巫女様さえよければ、だがな」
 と、前置きをいれて
「当分、この里で暮らしてもらっても良いのだぞ」
 アルコンは優しい口調で言いながら、いたわりの表情を見せた。
「せめて大人のからだに成長するまでは、ここで落ち着くのも良いと思うが」
 その言葉をかみしめるように沈思した後で、テルプシコルは静かに頭を下げた。
「気遣い、いたみいる」
 そして、顔を上げたテルプシコルのルビーのような紅い瞳には、強い意志の光があった。
「だが、何年もここで足踏みをしているわけにもいかぬ」
 すうっと息を吸い、テルプシコルは何かを確かめるように、はあっと息を吐く。
 そして、一拍おいて、不敵な笑みを浮かべて言った。
「幸い、言魂は前と同様に紡げるようだからな」
 それを聞き、その表情を見たアルコン。すこし長めのため息をついた。
「……止めても無駄か」
 ヤレヤレと首を振りながら。ずいぶんと元気になったテルプシコルを見る。
 そして、相変わらず心配げな表情で、誰にともなく話し始めた。
「だが……いくらムーサイの巫女様とはいえ、子供の姿になってしまったからな」
 ことさらに情けない表情を浮かべて。
「できれば供をつけたいところだが、この里に若いものはほとんどおらぬ」
 そこまで言って、アルコン。はあぁ~あ、と。いやに芝居がかったため息をつく。
「わしが、あと五十歳若ければな……」 
 そして、目をつむり。腕を組み、うつむいて黙り込む。
 終始一貫して芝居がかった感じであるが、演技内容としては仕草の大きい舞台俳優として判断しても、二流半と言ったところか。
 ともあれ、明らかに釣り糸を垂らした風なアルコンを見て、ジンは少し思案の後ですっくとソファから立ち上がった。
「僕が一緒に行くよ」
 そう言って、ジンはぐっと拳を握り込む。
「女の子ひとりじゃ危ないし。僕はロゴス使いだから、テルプシコルがミュートスを紡いでも誤魔化しも効くし。なによりずっと旅をしていたから、それなりに力にはなれると思う」
 と、なけなしの自己PRをしたジンだったが、ややあって、年に似合わぬ疲れたような顔で
「……それに、行くアテもないしね」
 と。ため息のひとつもつきながら、苦く笑って見せた。
 そして。予想通りの釣果に
「うむ、それが良いかもしれんな」
 と、アルコンはにっこりと頷いた。

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