#44:アンティマコスの部屋――深夜

 ジンはうん、と息を漏らして寝返りを打った。
 ――明日早いから、寝なきゃ……
 そんな事を考えては、頭から消そうと試み。
 また、別のことが思い浮かび。
 結局、眠れない。
「……はぁ」
 ため息をついてベッドから身を起こし、ジンはぺたぺたと靴もはかずに窓際まで歩いて片側のカーテンだけ静かに開けて外を見た。
 窓の外に見える細い月に照らされる里。
 生まれ故郷のはずだが、まるで見覚えのない里の風景が窓の向こうに見える。
「はぁ……」
 ジンは、窓の外を眺めながらひとりため息をつく。
 寝付けないのは、慣れないベッドのせいばかりではない。
(アーク、大丈夫だったかな?)
 テルプシコルの言魂で派手に吹き飛ばされたアーク。
 そして……気を失ったアークが目を覚まさないうちに、別れてしまった。

『ジン……アンタ、アークの敵になってしもたンや』

 どくん。
 不意に、クニスカの言葉を思いだし身を固くする。
(そんなつもりじゃ……なかった)
 確かに、アークに向かってオーラをまとった。
 でも、それはアークを倒すためにではなく。
 アークを止める――理不尽にしか思えないかたくなな態度を取っていたアークを、いつものアークに戻したかった。それだけだった。

「どうして、こんなことになっちゃったんだろう?」
 
 ジンは思わず声に出して、問いかける。
 答えを返すものは誰もなく。自問としても、自答するべき答えが見つからない。

 思えば。
 今まで、アークと一緒に旅をするのが当たり前になっていて。
 漠然と『アークの従者にでもなれればいいな』くらいに考えていた。
 それが――成り行きとは言えアークの敵となり、アークと別れることとなった。
(もう……どうにもならないのかな?)
 涙がでそうなほど切ない気持ちをもてあましながら。
 ジンは机の上に置いてあったグラブをはめてみた。
 それは、オープンフィンガータイプの牛革をあしらった蚕魂織りのグラブ。
 ――アークからもらった、ロゴスのグラブ。
 焦りといらだちとが入り交じったような感情に襲われ、拳を握る。
 手のひらに感じるグラブの感触が。ほんの少しだけ、ジンを冷静な気持ちにさせてくれる。
(なにが、いけなかったんだろう?)
 無論、答えが出るはずもなく。両手にはめたグラブを見つめ、ジンは深いため息をつく。
 そうして。窓越しに降り注ぐ、淡く蒼い月の光に照らされて。
 眠れぬ夜は、深々と更けていくのだった。

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