#45:アルコン邸、玄関先(一)

 早朝。まだ、朝靄の晴れきっていない時間。
 旅支度を調えた一行は、アルコンの家の前でしばし談笑をしていた。
「うむ、ずいぶんと着やすくなった」
 テルプシコルはアルコンがサイズ直しをした服を着て、満足そうに笑顔を見せた。
 『直した』というか『仕立て直した』レベルの大修理であったが。アルコンの腕は確かなもので、まるで最初からこのサイズだったかのように、綺麗に仕上がっていた。
「これくらいならば、おやすいご用だ」
 アルコン、そう言うと少し苦笑してテルプシコルの服を見た。
「まあ……相当に無茶な直し方になったが、な」
 元々が夏物だったのか、七分袖にAラインの脛丈くらいのロングワンピースと言うデザインだったが。なにせ、十九歳の女性用の服を十歳くらいの女の子に合わせて直すのだから。かなり無茶なつじつま合わせが必要となるのは必定。
 具体的に言うと……七分袖は丈を詰めてなおラッパ袖の長袖になり。
 胸元とウエストは詰められるだけ詰めて調節した結果として、脛丈ロングのAラインワンピースだったはずがマキシ丈のプリンセスラインになっている状態。
 余談だが。
 筆者はその昔、婦人服の販売員をしていたことがあり。
 あるお客様の『どうしてもこれが着たいのよ!』というリクエストにお応えして。
『ウエスト十二センチ出し。ヒップ四センチ出し。丈詰め四センチ』
 というスーツのスカート直しを承った結果……セミタイトのミリタリー風台形スカートが『正方形スカート』という、どこのファッション雑誌にも載っていないオリジナリティ極まるアイテムに変化してしまったことがあった。
 それはそれとして。別布を使ってまで直したのに、綺麗に仕上がっていたスカートを見て
(案外無茶な直しが出来るもんだねぇ)
 と。元々はオーダーメイドの洋服屋だったという、直し屋さんの技術に舌を巻いたのだった。

 ――そんなわけで。
 こちらのワンピースもすっかり原型をとどめていない状態で。広げて見た瞬間に目を丸くしたテルプシコルだったが。
「まあ、多少のデザイン変更はいたしかたあるまい」
 と、ちょっぴり苦笑して言ったものだった。
 そして、その場でくるっと一回転してみせたテルプシコルは
「なにより、実に着やすい。ありがとう」
 と、アルコンににっこりと笑って礼を述べた。そんなテルプシコルをうれしそうに見て
「光栄の極み」
 などと、アルコンはおどけたように胸に手を当て一礼してみせる。
 そして、改めて目を細めてテルプシコルを見て全体のフォルムを確認し、納得した後で
「さて……」
 と。表情を引き締めメイミィに向き直ると、寂しげな顔でアルコンは言った。
「メイミィ、からだには気をつけてな。必ず、帰ってくるのだぞ」
 見慣れぬ旅姿のメイミィを見て、実に心配そうなアルコンにいつも通りのお気楽な笑顔で
「うん、わかった」
 と、頷いたメイミィは一拍おいて、にかっと笑った。
「あと、アンティに会ったら、爺様は元気だよって言っておくよ」
「そうか……たのんだぞ、メイミィ」
 うん、と。メイミィは元気よく頷く。

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