#47:古代の神殿(一)

 そして、時は戻り。
 古代の神殿の前、ジン一行が森の中へ消えて行ってから程なく。
 テルプシコルに吹き飛ばされ,気を失っていたアークは軽く呻いて目を覚ました。
「お、起きたかぁ?」
 ちょっと離れたところから聞こえるクニスカの声にああ、と頷きながら半身を起こす。
 神殿はすっかり静まりかえっていて……この場にいるのはクニスカと自分だけと分かり
(――やはり、行ってしまったか)
 と、アークは心中嘆息した。
 そしてクニスカ。荷物の中からスキットルと小さなタンブラーを取り出し。スキットルの中身のウゾを、錫のタンブラーになみなみと注いだ。

「まあ、まずは一杯や」
 アークはタンブラーをクニスカから受け取り、意を決したように一息でぐいっと飲み干した。
 アニスの甘いようなスパイシーなような独特の風味がアークの体内を駆け抜け、瞬時に意識を覚醒させる。そして、アークは苦々しげに呟いた。
「……完全な負けだな」
 アークからタンブラーを受け取ったクニスカ、軽く首を振りながらため息をつく。
「ムーサイの巫女相手や。しゃーないわ」
 その言葉を聴いて、アークはクニスカに身体ごと向き直って問いを投げる。
「ムーサイの巫女とは何者だ?」
 クニスカはその問いを予測していたような感じで、軽くため息をついた。少し間を置き、うーんと唸った後で説明を始める。
「三百年以上前……この地に帝国ができる前に、ある王国があったンや」
 そこでクニスカは話の間を開けて、アークの顔をちらっと見る。
「国名は『イリオン』」
 それを聞いて目を丸くするアークの様子を横目で見ながら
「……そう、聖イリオンの元になった国名や」
 とクニスカは言い、さらに言葉を選ぶようにして話を続けた。
「そのイリオンは、ミュートスによって治められてた国でな。現在よりも強い力を持っていたと言われる古代のミュートスの中で、王族と呼ばれる特別に力のあるミュートス……」
 すうっ。
 少し息を整えて、クニスカは、ゆっくりとアークに語った。
「その中でも特に力が強い……神様のような力を持つ九人のミュートスを『ムーサイの巫女』と呼んでたンや」
 その言葉を聞いて、アークの脳裏に浮かんだのは光り輝くオーラの衣をまとった少女。
 沈思している風のアークに、クニスカは問いかける。
「でな。ウチらが名乗ってる『フォーネス』って『伝える者』ちう意味やろ?」
 問いかけられたアークはクニスカの意図を探るように、感情を読みにくい細い目を見つめた。
「『皇帝陛下の御声を人々に伝える』のが我ら騎士の役目だ」
 せやな、と。アークの答えを聞いたクニスカは満足げに頷いてみせた。
「さっき、あの子も『イリオンのフォーネス』テ、言うてたやンか」
 教師のような表情と口調で、クニスカは解説を続けていた。
「元々の『フォーネス』って『導きの声を伝える者』ちう意味でな」
 アークも生徒のように、黙ってクニスカの話を聞いている。クニスカは、板書しないのが不自然なくらいの調子で
「それが『イリオンのフォーネス』『ムーサイの巫女』なんや」
 と、話を締めくくった。
 なるほどと頷くアークに、はぁ……とため息をついてクニスカは補足を加えた。
「要するに……ご先祖さんが、聖イリオンちう国を作るとき――この呼び名をパクったンや」
 今まで考えもしなかった話を聞いてアークは瞠目した。
 その驚きの顔を見て、ちょっと苦笑を浮かべたクニスカは
「『えぇから、ウチらの言うこと黙って聞いとけー!』て、国民に言うためにな。ムーサイの巫女さんの権威をそっくりそのまま頂いたちうことや」
 と、そこまで話してからシニカルに首を横に振り、アークを見た。
「本家本元が来ると……恥ずかしくて名乗れない名乗りやな」

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