幕間①:三人

#49:林の中(一)

 林の中に入るとさわやかな風がどこからか吹いてきて、メイミィは思わず深呼吸をした。
 それほど密度が濃くない林の中には適度に日の光も届き、下生えのあちらこちらに見込み通りにハーブが生えているのが見て取れる。
 お、と声を上げ。メイミィがジンの向こうにある茂みを指さした。
「ジン、そっちにリコリス」
「うん、わかったよ」
 すたすた。
 まるでメイミィが見つける前に見つけていたかのように素早く、ジンは視線の先にある薬草を見つけ歩いて行く。
「ジン、かご」
「ありがと」
 メイミィの差し出す籐かごを、まるでかごが来ることが分かっていたかのようにジンは自然に受け取った。リコリスの束をとんとんとそろえて籐かごに放り込んで顔を上げて、メイミィの背後に目をとめる。
「あ、メイミィ……それ」
「マグワートだあ」
 ちょっと離れた茂みの中に背の高い西洋ヨモギが群生しているのを阿吽の呼吸で見つけた二人は、嬉々としてかごを片手に摘みに行く。
 そんなコンビネーション抜群の二人の様子を、テルプシコルは少し離れたところから眺めていたが、やがて
「ふう……」
 と、ため息の半歩手前の重たい息をついて木々の向こうに覗く空を見上げる。
 その間、テルプシコルも地道にバジルなど見つけて摘んではいるが、今ひとつ集中していないのかその速度は鈍い。
 そんなテルプシコルの様子には特に頓着することもなく、ジンとメイミィはがしがしと薬草を摘んでいた。
「ジン、あそこにローズマリーあるんだけど」
 二〜三メートルの高さがある丘の上に、灌木に混ざって薄い紫の花が見えた。
 丘の傾斜は急ではあるが、勢いよく登れば駆け上がれそうな感じ。
「僕が行くよ……わ!」
 メイミィを制して丘を駆け登ろうとして、途中で思いっきり足を滑らせるジン。
 腹ばいのまま滑り落ち、テルプシコルの前で止まった。
 目の前に現れたジンの尻にむかって、テルプシコルは声をかける。
「大丈夫か、ジン?」
「あ、うん……平気だよ」
 へへへ、と。
 なんだか、良い具合に土にまみれて笑いながら、照れくさそうにあぐらをかくジン。よく見ると、膝小僧のあたりを軽くすりむいているが、スライディングの勢い的にやむを得ないといったところだろう。
「ほら、すりむいているぞ」
 テルプシコルは苦笑しながらリボンに指をかける。
 そして、その後ろからひょっこりとメイミィが現れ、同じく苦笑い。
「なんで、そんなに滑って行っちゃうかなあ」
 言いながらリボンをほどき、ジンの前にしゃがみこむ。
 オーラをまとったのだろう。ぽおっと膝の擦り傷にあてたメイミィの手が、柔らかく光った。
「『いたいのいたいの、とんでけー!』」
 ぽわっと。
 メイミィが紡いだ癒しの言魂に呼応してジンの膝が柔らかく輝き、みるみるうちに擦り傷が治っていく。
「へえ〜、すごいなあ……綺麗に治るモノだねえ」
「だって、ほら……わたしにも責任があるような怪我じゃない?」
 少し遠慮がちに言うメイミィ。
 ジンはすかさず首を横に数回振って見せた。
「それは大丈夫だけど……でも、すごい」
「えへへ」
 ジンに感心され、照れ笑いをみせたメイミィだったが、よいしょっと膝を払って立ち上がった。
「私がローズマリー摘んでくるよ」
「うん、じゃあカゴを持ってるよ」
 ジンも立ち上がりながら、転がしたままのかごを拾いにいく。
 そして、テンポよく話をしながら二人は丘にリトライした。
 メイミィのほうが身が軽いのか、やすやすと丘を登りきる。
 そんな二人の背中を、少し寂しげな表情で見ながら
「……きょうだい、か」
 と、テルプシコル。独白してリボンを結び直した。

 そして、競い合うように、楽しげに薬草を摘む二人をみて。
 テルプシコルは、ふらっと歩き出した。
 なんとなしに昔を——三百年前を思い出しながら。
 テルプシコルは、薬草を探しながら林の中に入っていった。

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