#54:崖下

 少しバツの悪そうな顔でそういい置いて、そのままの表情でテルプシコルはジンとメイミィに向き直った。
「すまん、助かった」
 ぺこりと頭を下げるテルプシコルに、はあっと、安堵のため息で答える二人。
「ホント、危なかったねえ」
「うん、振り返ったらいなかったから。慌てて探したんだ」
 テルプシコルは二人がいやにタイミング良く現れたわけを——離れて独りで歩いていた自分の事を見つけてくれた理由を理解した。
「そうか……」
 と呟くと、神妙な表情でうつむいた。
 そして、そんなテルプシコルの前に立ち。
「テルちゃん!」
 と、メイミィは顔をのぞき込む。
「助かって良かったけど、一人でどんどん行っちゃだめだよ!」
 めっ!とたしなめる様な感じのメイミィ。その横で、ジンもやや苦笑気味に頷いた。
「そうだね。せっかくの仲間だから。一緒に行動しなきゃ」
 テルプシコルはそのジンの言葉に目を丸くして、目を見開いた。
「なかま……」
 予想外のテルプシコルの反応を見て、ちょっと戸惑いながらも
「うん、仲間。助け合わなきゃ」
 当たり前のように言うジン。
 横で、うんうんと。これまた当たり前のような表情で頷くメイミィ。
 一拍の間。うつむいて、言葉を噛みしめるように。テルプシコルは言った。
「そうだな……」
 うれしいような、寂しいような。
 少しだけ複雑なテルプシコルの表情を見て
「えいっ!」
 と。
 メイミィは前振りなしでテルプシコルに抱きついた。
「な、何を……!?」
 結構勢いよく飛びついてきたメイミィの予想外の所業に、テルプシコルは困惑の色を表情に浮かべる。
 そんなテルプシコルの耳元で、メイミィは静かにささやいた。

「心配したよ、テルちゃん」

 ぎゅ……
 優しく、でも強く抱きしめられて、テルプシコルの動きがとまる。
 少しの沈黙。
 テルプシコル、メイミィの胸に顔を埋めるようにして
「……すまん」
 と。照れくさそうに、うれしそうに、はにかんで微笑む。
 そんなテルシコルの顔をメイミィはじっと見つめて
「今度から気をつければ、おっけーだよ」
 そう言い置いて、お気楽に笑った。
「……アニスだ」
 ジン、目の前に群生しているアニスに今気がついたのか、目を丸くして呟いた。
「これをみつけて、足を踏み外したのだ」
 苦笑して、ジンの横に立つテルプシコル。メイミィは、にかっと笑って二人に言う。
「よおし、やっつけちゃおう!」
 そして、その後は三人のコンビネーションでカゴを薬草・スパイスで一杯にして。意気揚々と街道へ戻ったのだった。

 その後、街道沿いの宿場町に出て薬草を売った一行。中には相当に希少なものもあり、それなりにまとまった金額になった。
 また。
 テルプシコルが持っていた旧イリオンのコインが、意外なほど高く売れ。
 つい数時間前の文無し云々はどこへやら。取り合えず、路銀の心配は無くなったのだった。

「これで、当面は大丈夫だね」
「日持ちする野菜を買っていくか。干し肉もな」
「そうだねー」

 存分に市場で買い出しをした一行。
 意気揚々と、西を目指して旅をするのだった。

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