幕間②:師弟

#55:古代の神殿

 時は少し戻り。
 クニスカと別れたアークは、がらんとした神殿の中にひとり立ち尽くしていた。
 窓一つ無い建物だが、入り口の扉を開けると外からの光がうまく反射して部屋全体に回るように設計してある。
 設計者の技術と、優れた建物にするのだと言う並々ならぬ熱意が感じられた。
 とりわけ、中央に据えられた寝台——テルプシコルが眠りについていた——のあたりは、さながら間接照明のように柔らかく優しい光に照らされるようになっており、長い眠りから目覚めたとき、目が眩まぬようにとの配慮が見受けられた。
「……さて、どうするかな」
 彼にしては珍しく、独り言をつぶやき。
 アークは白い石で出来ている天井を見上げた。

 手がかりはない。
 あるのはクニスカにもらった、適当な地図一枚。
 そして、自分の記憶——信じられない出来事ばかり起こった、その記憶。

 どかり、と。
 アークは泰然と寝台に腰をかけ、自若に腕を組み、すうっと息を吸って思考を整える。
(そういえば……)
 もやもやと煙る思索の中から、ちょっとずつ手がかりを引き寄せる。
(あのミュートスの娘は……どこからきたんだ?)
 大きな水音に駆けつけたら。さながらジンが分裂したかのように水辺に立っていた。
 名前はメイミィといったか、と。
 ジンの双子の妹だと言っていたな、と。
 そんな感じで、浮かんだ考えを鎖でつなぐようにつないでいく。
(この建物が古代の王族が眠る建物だとしたら……)
 身じろぎ一つせず、ただ静かに目をつむり。
 考えの一つ一つを——暗闇の中から引っ張り出し、並べた。
(その守人が、近くに住んでいるのは道理だ)
 様々な理屈を並べ替え、意味がつながるようにつないでいく。
 ブロックをスライドさせて絵を完成させる——そんなパズルを解くかのように。
(あの娘は旅をしているようには見えなかった)
 薬草カゴをもち、極めて軽装でジンと口げんかをしていた少女。
 きっと近くの集落から『お使い』に来たに違いない。
 薬草・山草の類も豊富なこの森ならば、自給自足にはもってこいだろう。
 ——隠れて住むには、良い立地だと言える。
(ならば……ジンと巫女を連れ、戻ったと考えるのが普通だろう)
 所在の知られぬ隠れ里に、伝説のムーサイの巫女がかくまわれるというのは、実にしっくりくる考え。
(『妹』が『兄』を生まれ故郷に連れて行く、と言うこともある)
 様々な事象が、ジン一行をミュートスの里に結びつけて行く。
 アークは考えをまとめ上げ、すっくと立ち上がった。
(……ジンの行方もだが、あのミュートスの巫女が気になる)
 自分をあっさり破ったあの実力。出来ればもう一度……
 もはや、迷いの色もなく。
 アークはまっすぐに神殿の出口を見据えて、ごく自然な足どりで神殿を出る。
(本当に、伝説の巫女が復活したのか……)
 三百年……人が眠りについて、目覚めるにしては正直あり得ない年月である。
 いくらミュートスとて、俄に信じられるものでは無いはずだ。
(それを受けたミュートスたちがどう動くのか)
 だが……あの娘は信じていた。
 であれば——ミュートスの間で復活は予測されていたものなのだろうか?
(確かめられるのならば、確かめたい)
 それは騎士として——ミュートスを狩るより、遙かに有意義に思える。
 アークは深呼吸よろしくすうっと息を吸い込み。
 そして、懐より件の地図を取り出した。
「よし、行くか」
 独白一発。うむ、と頷いて。
 納得顔のアークは、泉の向こうへと歩き出すのだった。

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