#56:ドドナ郊外、山中(一)

 そして、神殿を出発して二日目の朝。
 アークは未だに里の入り口を見つけられず、鬱蒼と茂る森の中で途方に暮れていた。
(このあたりに集落があってもおかしくないのだが……)
 神殿の泉を起点に八方を探索したが、それらしき道はなく。
 人里の跡どころか、人が歩いた跡すらなかった。
 見つかったのは唯一、来た道とは別の街道まで延びているであろう細い道だけ。
(この道は地図に載っているな)
 いったい、どのようなデータ圧縮技術なのか?
 そう尋ねたくなるほどに、アークは子供の落書きのような乱雑な線の集合体から地形やらなにやらを読み取っている。
 少し小道の入り口で思案した後で
(この道を下ってみるか)
 と、道の入り口まで歩いて行った。
 途中枝道があって、それが集落に通じているのではないか、と考えつつ。アークは道とは呼べぬような、下生えでほとんど隠れてしまっている小道に踏み入った。
 その小道は木々の間を抜けるように曲がりくねって伸びており、全体的に見てなんとなしに下り道になっている。
(どこかで通ったような道だな……)
 奇妙な既視感を覚えたアーク。冷静にその原因を探りながら歩みを進める。
 しかし、いくら考えてもこの山中に足を踏み入れたことはないはずで、ましてこんな獣道のような道を通った事はない。
(しかし、どこかで……見たような)
 針葉樹ではなく広葉樹が目立つ森の中を、細く伸びていく道を歩いて行く。
「……あ」
 と。不意に声を漏らし、立ち止まる。
(そうか……ジンを最初に連れて歩いた道と似ているのか)
 と気がついたアークは、ふっと薄く笑い頭上を見上げた。
(存外、覚えているものだな……)
 木漏れ日が淡く頬を照らす中。
 アークは昔を思い出していた。

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