#58:カミニア郊外、山中——ロゴス暦二九六年(二)

 無心になるのが上手いな、と感心しながらアークは言う。
「そして、拳を握り……自分の中から力を出すイメージで息を吐きかけろ」
 ジンは、正直イメージの作り方が今ひとつつかめなかったが、さっきアークがやってたアレだと思い、アークと同じように右の拳をぐっと握りこみ。
 自分の中に渦巻く想いを乗せるように。
 はあっと、拳に息を吐きかけた。

 ——ぽおっ。

 次の瞬間、ジンの右拳が薄く淡く輝いた。
「な……!?」
 それを見たアークの瞳が、見開かれる。
「一回で、だと!?」
 オーラをまとうという、この行為。実のところ習得が難しく。
 言魂使いの基本中の基本なのだが、出来るようになるまで数ヶ月——かかる者では数年かかることもある。
 当然、一回で出来ると思っていなかったアーク。
『焦ることはない。出来るまで、折を見て何度もやってみるんだ』
 と、悔しがるジンに言うつもりだったが……
「あ、出来てる」
 目を開けて、口を開いてもなお輝くジンの拳。
 しっかりとオーラをまとっている証左だった。
 そんな様子をあっけにとられたように見ているアークに、ジンは拳をかざしながら笑顔で尋ねた。
「どう、アーク?」
「あ、うん。それで良い」
 それで良い、などという次元ではない。
 言魂使いとしての能力がかなり高く、子供のころから他に類を見ない適性と謳われたアークですら、一ヶ月はかかった覚えがあった。
 てへへ、と照れたように笑うジンを見ながらアーク。しばし瞠目する。
 ややあって、アークは何かを決意したような表情で。ジンの目をまっすぐ見ながら言った。

「ジン——俺の弟子になるか?」

 いきなりの提案に、面食らった様な顔になるジン。
 それは予測していたのか、アーク。なおもジンに向かって話し続ける。
「お前には素質がある。それを伸ばしていきたい」
 それも、おそらく——前例が無いほどの言魂使いとしての素質。
 修行を始めるにしては、やや年齢が高かったが。それを補って十二分な素質が。
 そして、アークにまっすぐ話をされたジン。思いもよらない言葉に、少し顔を紅潮させる。
「僕に……素質が?」
 ジンの問いかけに、深く頷いて見せるアーク。
「もしかしたら——俺より強くなるかも知れないぞ、ジン」
 だから、ロゴスを覚えてみないか、と。熱っぽく言う。
 言われたジン。うーんと、少しだけ考えてから、アークの目をまっすぐに見上げて
「僕で良ければ、喜んで」
 とにっこり笑った。

 こうして——ジンは、アークの初めての弟子になった。
 それから二人で帝国各地を旅をしながら。アークはジンにロゴスの基礎を教え込んでいった。
 ジンが成長して、身体が多少大きくなってからは体術も教え込んだ。
 アークの教え方は丁寧で、しかし、妥協を許さぬ厳しさもあった。
 そしてジン。そんな師匠の教えを忠実にこなしていった。
 体術の方は決して素質がある方でもなかったが、それを遙かに凌駕する言魂の素質を発揮して尋常ならざる速度で成長。師匠のアークを驚かせ、そして何より喜ばせていったのだった。

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