第3章:遭遇

#61:ベルメト近郊、山中(一)

 隠遁の生活を送るミュートス達を探し、彼らの復権を図る——
 ジン・メイミィ・テルプシコルの三人がそんな大志を抱いて旅を始めてから、一週間が経過した。
 最初は足が痛いの疲れたのと言って、ジンに気を遣わせていた女子二名もようやく慣れてきたものか、この頃は順調に歩みを進めていた。
 そして、深い山中を抜ける道を三人は歩いていた。このあたりはすっかり人里から離れているためか周りは寂しげで、すれ違ったり追い抜かれたりする他の旅人もほとんどいない。街道をトンネルの如く覆った木々が陽を遮って、昼なお暗い細道となっている。
 先頭を歩くジンは軽く息を吐き、きゅっとグラブをはめ直した。
「こういうところは、山賊やモンスターが出るから気をつけないと」
 と、モンスターに遭遇するのも盗賊に襲われるのも嫌と言うほど経験しているジンは、後ろを歩く二人に言いながら表情を引き締める。
「お化け? そんなモノを信じているのか?」
 ちょっと意外そうに、テルプシコルは先頭を歩くジンの背中を見る。
 意外に子供なのだな、と言う風情のテルプシコルにメイミィは
「お化けじゃなくて、モンスターだよ」
 と、首を横に振った。
 そして『モンスター』と『お化け』の違いが今ひとつ分からない風のテルプシコルは、若干怪訝そうな顔でメイミィを見たが、ややあって得心げにニヤッと笑った。
「お主の幽霊ならば、今先頭を歩いているぞ」
「もー!それは言わない約束でしょー!」
 恥ずかしがるメイミィ。愉快げに肩を揺らして笑うテルプシコル。なにやら疲れたようなため息をつくジン。
 実に平和な光景だった。

 しかし、その平和は長く続かなかった。
「……何、あれ?」
 先頭のジンの視線の先にの道端には太い木が一本生えており、その木の根元にぐったりとうずくまる人影があったのだ。
 ジン達もそれなりに喋って、それなりに音を立てているはずだがまるで反応がない。
「——死んでる、のかな?」
 と、誰にともなく言いながら、ジンは拳にはあっと息を吐きかけ手早くオーラをまとった。そして、そのまま様子を伺うべく慎重な足取りで人影に近づいていった。
 うずくまっているのは、どうやら男性であるらしい。ずいぶんとくたびれた旅姿、頑丈そうな厚手の綿で作ったずだ袋——半分以上が空になっているようだが——が、男の横に置いてある。
(……気をつけないと、ね)
 ジンはその昔、盗賊達の罠にひっかかったことがある。
 今回のように行き倒れている男を助けようと男の前に立ったら……上から狩猟に使うような網が落ちてきてまんまと捕らえられてしまったと言う、ちょっと間抜けなお話である。
 ——その後、棍棒で罠にかかった『獲物』を滅多打ちにしようと近づいてきた盗賊たちに、網越しにロゴスの攻撃を喰らわして抵抗しているところに、騒ぎを聞きつけやってきたアークが参戦。結果的に盗賊達を全員倒して丸く収まったわけであるが。
(今回はアーク、いないからね)
 と、ジンは気を引き締めながら男の様子を見た。
 顔はよく見えないが、どうやら若者であろうということはわかった。
 そして、うずくまってなお見て取れる巨躯——どんな鍛え方をしたらこうなるのかというほど隆々に隆起している筋肉を見てジンは
(こんな強そうな人が行き倒れしてるの、おかしいよ!)
 と心中でツッコミをいれてしまうくらいに違和感を覚えたものの、別に誰か潜んでいたり罠がはられていたり風でもないのである。
(旅の戦士、かなあ……戦って怪我した……ようにもみえないなあ)
 行き倒れにしてはあまりに頼もしい肉体を前に、警戒のためにオーラをまとったままジンの動きが止まった。

公開 : (1506文字)

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