#62:ベルメト近郊、山中(二)

 そして、その次の瞬間
「大丈夫!?」
 と、メイミィが猫を思わせる俊敏さでジンの脇を抜けて男に駆寄った。
(えええええ!? 僕が警戒してるのは無視〜っ!?)
 驚きながらも不測の事態に即応できるように、ジンはメイミィの後ろでグッと腰を落として構えた。
「……」
 間近で響くメイミィの声に反応して、男はのっそりと顔を上げた。
 気を失っていると判断していたジンは少なからず驚きの表情をみせつつ、オーラを厚くまとう。
「よかったあ……!」
 緊迫度合いを増すジンをよそにほっとした表情をみせたメイミィに、その男は力ない声で
「腹へった……」
 と呟くように言うと、力を失ったようにカクっとうつむいてしまった。
 そして、そのまま微動だにしない。
「ちょ、ちょっと待ってて……」
 その様子を見て慌てて荷物の中を探るメイミィだったが、こういうときには捜し物が出てこないモノで、やれ玉ねぎだのジャガイモだのが放り込まれたバッグをがさごそすること数十秒。やっと探し当てたパンを取り出し、腰にぶら下げた水筒とセットで男に渡した。
「はい、パンあるよ!」
「……すまねぇ!」
 メイミィが男に渡したのはホリアティコという長さ二十センチほどの大きめのパンだった。
 しかし、受け取った男の手がやたら大きく、まるでテーブルロールを持っているかのように見えてメイミィの目が驚きでまん丸になった。
「こりゃ、パンだけじゃダメだなぁ……」
 即時判断を下したメイミィは、なおも周囲の様子をうかがいながら近づいてきたジンに向かって
「ジン、火をおこして!」
 と、有無を言わさぬ口調で言い放った。
 オーラをまとって戦闘状態のままなジンの目を白黒させながら、メイミィはまた荷物を漁り、めぼしい食材を探し始めた。
(タマネギ、にんじん、ジャガイモ、トマトにキャベツ……あと、ニンニク)
 お肉はないかあ、と思いながら料理長メイミィは手際よく下ごしらえに入る。
「よい、しょ……っと」
 その間、ジンはメイミィの真剣な表情に気圧されながらも手頃な石を積み上げてかまどを作る。続いて、集めた小枝を薪代わりにかまどの中に組み上げ、手早く火をおこしてみせた。
 そして、火がついたのを確認してから、タマネギを刻んでいるメイミィに声をかける。
「手伝うよ、メイミィ」
「ありがと」
 パンをがっついている大男を余所に、ジンはジャガイモの皮むきを手伝いはじめた。
 タマネギをみじん切りして、ちょっと涙目のメイミィはかまどに手鍋を二つセットしてからジンが皮をむいたばかりのジャガイモをやや大きめに切りはじめる。
 その間に取り急ぎジャガイモの皮をむき終えたジンは、トマトをつまんでメイミィに尋ねる。
「トマトは?」
「皮をむいてくれる? 串に刺して軽く火であぶって、皮がぷくっとしてから水につけてむけば簡単にむけるよ」
 言われたとおりにやってみると、確かに見た目は少し悪いが湯むきするより簡単にむける。
 ジンは感心しながら、教わった技を駆使してトマトの皮をどんどん剥いていく。
 そして、メイミィはその間に人参の皮を剥いてざっくりと賽切りした後でもう一つの鍋を下ろす。
 鍋の中がぬるま湯になった頃合いなのを確認して、中にパスタをざらっと入れるとそのまま脇によけて放置した。
「メイミィ、キャベツは?」
「一口サイズにザク切りしておいてー」
 うん、わかったと答えながらも手際よく、ジンはキャベツの下ごしらえを進めていく。
 それを見て、メイミィはまな板の上でニンニクの皮をむき中の芯を取ってから
 ばん!ばん!
 と、豪快に包丁の腹で潰す。その様子から何かを悟ったのか、ジンは熱した鍋の一つにオリーブオイルを多めにしいた。
 そんなジンにありがと、と礼を言いつつメイミィはまだ入れたばかりのオイルの中に潰したニンニクを放り込む。やがてじわじわとオリーブオイルが暖まり、ぷつぷつと泡を立て始める。
 毎度の事ながら、見事なコンビネーションであった。

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