#64:ベルメト近郊、山中(四)

 だが、それはそれとして
「とっさにこんな美味しそうなスープが作れるのはさすがだなあ」
 と、メイミィが速攻で作ったスープの出来に関心げな表情になっていたりもする。
 ジンもアークとの旅の間ずっと料理をしており、腕に覚えもあったのだが、メイミィの方が一枚上手だったといえよう。
 そして、テルプシコルは実に屈託なく食べている男を見て、ふむと頷きながら言う。
「私も料理を覚えなければな」
「そういえば、お姫様だもんね」
 普通お姫様はお城で料理とかしないよねと。メイミィはちょっと苦笑いしたのちに、テルプシコルの方を見てにっこりと笑った。
「これから色々教えるよ」
「すまんな」
 と、テルプシコルもそれを受けて苦笑いである。
「……ふう」
 ややあって、人心地付いたのか男は真顔で顔を上げ、居住まいを正すと
「これで命が繋がった。本当にありがとう!」
 と、手鍋を拭いていたジンに向かって深々と頭を下げた。
「あ、いや……」
 いきなり頭を下げられて、目を白黒させるジン。
 そして、逆サイドに立っていたメイミィは面白そうにけらけらと笑った。
「こっちこっち」
「なに!?」
 右を見て、左を見て。
 このときに至り、同じ顔の人間が二人いるのに気が付いたのだろう。
「こ、こりゃあ……とんだ失礼をしちまった」
 と、大いに恐縮しながら、男は深々とメイミィに向かって頭を下げた。
「俺はマクラウドって言う、武者修行中の戦士だ。マックって呼んでくれ」
 そんな大男——マックの名乗りを聞いて
「よろしくね、マック」
 元気になって良かったという風に、メイミィはにっこりと笑った。
(旅の戦士、かあ……修行中のアークみたいな感じ、なのかな?)
 と、納得したような思案げなようなジンの横にメイミィは移動して、面白そうに微笑む。
「私はメイミィ。そして、こっちが私の双子の兄でジン」
 それを聞いて目を丸くするマックに、ジンは少しぎこちない感じで微笑んだ。
「よろしく、マック」
 ジンを見て、メイミィを見て。
 その二人の自己紹介を聞いたマックは、感心したように頷いた。
「双子かあ……! 成る程、得心がいった」
「えへへ」
 と笑った後で、メイミィはさらに移動してテルプシコルの後ろに立つ。
「あと……あー……」
 テルプシコルの肩に手を置いたまま、困惑するメイミィ。その様子を、マックもジンも怪訝な表情で見る。
 どうしたのだ? と振り返るテルプシコルに向かって、ちょっと苦笑いしながらメイミィは尋ねた。
「……テルちゃん、本名なんだったっけ?」
「テルプシコルっ!!」
 と、勢い良くテルちゃんことテルプシコルは即答した。
「だって」
 と、メイミィは少しバツが悪そうに笑った。
 その紹介を受けて、マックは笑顔でテルプシコルに向き直る。
「古風な良い名前だな。よろしくな」
「ああ、ありがとう」
 マックに向かって、テルプシコルは上機嫌に柔らかく微笑んだ。
 メイミィも、マックに向かって実にいい笑顔で付け加える。
「『テルちゃん』って呼んでね」
「呼ぶな! 普通に呼べ!!」
 背後のメイミィに振り返りざまツッコミを入れるテルプシコル。
 そのタイミングといい勢いといい、実に見事なツッコミである。
「なるほど、普通にか。了解だ」
 しっかりと頷いたマックを見てテルプシコルはちょっと安堵の表情になった。
「……ところで」
 言い置いて、マックは真面目な表情でテルプシコルの方を見る。
「何だ?」
 と、居住まいを正したテルプシコルを見て、それから背後の双子を見て、不思議そうな顔でテルプシコルに尋ねた。
「何で子供ばかりで旅をしているんだ、テルの字?」

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