#67:森の中(二)

 そして、その横で。
 ひっ、と。その横で息を飲んだメイミィは衝動的にリボンをほどくや、すうっと息を吸い込み、瞬時にオーラを身にまとった。
 次の瞬間、全身が光り輝いた後に例の猫耳姿に変化したメイミィを見て、さすがに警戒したものかモンスターの動きが止まる。
 その隙にメイミィは精神を集中し、さらにオーラを輝かせる。

「あっち行ってえ〜! 『ハミングリズム!』」

 窮鼠猫を噛む、ならず窮猫怪物をひっかくというべきか。
 メイミィは怪物に向かって悲鳴のような言魂を発した。
 それは完全な不意打ちで、オーラの塊が直撃したモンスターは突然の衝撃に眉をしかめる。
「……おのれ!」
 モンスターの身体から、どす黒い障気が吹き上がり全身をオーラの如く覆う。
「『吠えろ!』」
 狂気と憤怒が入り交じったような表情で、モンスターはメイミィに襲いかかって来た。
 右腕の獅子が咆哮を上げ、鋼すら切り裂きそうな鋭い爪を振り下ろす。
「うわあ!」
 とっさに、オーラを込めた手で爪をはじいたメイミィ。
 その一撃は重く、一度は防いだが何度も受けることはできないことが直感でわかる。
 恐怖の表情のまま動けなくなっているテルプシコルの手を引っ張り、メイミィは全速力でモンスターから距離を置こうとした。
 しかし。
 モンスターは大きな歩幅と、大蛇や獣のリーチを生かしメイミィを追い詰めようと、見た目から想像するよりも素早く2人を追いかけてくる。
 足下は草もまばらで滑りやすく歩きにくい。メイミィの足ではテルプシコルを連れて逃げ切れるとも思えず——だからといって、戦って勝てるとはもっと思えない。
 絶望混じりの表情で振り返ったメイミィと、モンスターの目があった。
 凍りつくメイミィを、モンスターは憤怒と狂気の混ざった目で睨みつける。
「……殺す」
 シャア!
 勢い良く噛みつこうと飛びかかってきた大蛇の牙を、オーラを厚くまとって、力尽くではじきながら、メイミィは大きな声で叫んだ。

「誰か来てー!!」

 生まれ育った村ならば……メイミィが叫べば、屈強な男衆が駆けつけたかも知れない。
 だが、村を出て数日。人里離れた寂しい街道の、そこから外れた森の中。
 駆けつける者などいるはずもない——はずだった。

「おうっ!」

 まるで、森の中を飛ぶように……おそらくは全力疾走してきたのだろう。
 もの凄い勢いで、メイミィ達とモンスターの間に——マックが割って入った。
 次の瞬間、マックは微塵の迷いも寸毫の躊躇もなく
「『ボーンクラッシュ!』」
 と、渾身の力と言魂を込め、メイミィに伸びてきた大蛇を殴りつけた。
 ぐしゃ、と。嫌な音を立ててすっ飛んだ蛇に一瞥もくれず、眼力鋭くマックは苦痛の表情を浮かべたモンスターを睨みつける。
「手前ェ、何しやがる!」
 オーラをまとったマックの拳が、まばゆく輝いていた。
「よくも……!」 
 モンスター、怒りに目を剥きながらマックに相対した。

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