#68:森の中(三)

 茂みをかき分け森の中から出てきてみたら、知らない娘に攻撃され。
 頭に来て反撃したら、もの凄い勢いで走ってきた男に加減無しのフルパワーで殴られた。
 客観的に考えてみるに。
 『何しやがる!』は、モンスターの方が言いたい台詞だったのかもしれない。

 瞳から狂気の色は若干薄れたが、憎悪の表情がより濃くなったモンスターは
「……ロゴスか」
 憎々しげに言い置いて、禍々しい目つきでマックを睨み付けた。

「死ね、ロゴス使い」
「馬鹿野郎。言われたからって『ハイ、そうします』って死ぬ奴ァいねェや」

 交渉決裂。
 マックはモンスターの眼前に立ち、ファイティングポーズを取る。
「腕尽くで来な」
 大胆不敵にニヤリと笑い、異形のモンスターを相手に威勢よく啖呵を切り、さらに厚くオーラをまとった。
「……殺す」
 そんなマックの余裕の表情を受けて、憤怒のモンスターは腰を落とし、マックに向かって構えなおした。右腕の獅子は唸り声をあげ、左腕の大蛇は威嚇するように牙をむき出しにする。
 その様子を、森の木々に隠れる様にして見ていたテルプシコルとメイミィの元に
「大丈夫!?」
 と、息を切らせてジンが走り込んできた。肩で息をしながらテルプシコルとメイミィをかばうように立つ。
 そして。
 ジン、マックが対峙しているモンスターを見て目を見開いた。
(……なに、あれ!?)
 各地を旅して回ったジンですら——いや、だからこそ『ありえない』と感じる。
 そんな、規格外のモンスターだった。

 モンスターは人間に害を為す生物。
 では……人間がモンスターになったら——それはなんと呼べば良いのだろう?

 混乱するジン。恐怖に立ち尽くすテルプシコルとメイミィ。
 そして、当のマックはむしろ楽しげに、不敵な笑みを浮かべてモンスターの出方をうかがっていた。

 ——ように見えた。

 実のところ、マックはかなり困惑していた。
 まず、こんな化け物にお目にかかったことはなく、腕に獣が付いている相手と戦ったことなどもちろん無い。
 見たところ相手はやる気充分で、話が通じる風でもない。
 そもそも、こっちの攻撃が通じるのか——全くわからなかった。
(弱ったな……一度退いて、作戦を練りたいところだが……)
 すうっと息を吸い込み、マックはオーラを厚くまとう。
 次の瞬間、モンスターは憎々しげな唸り声を立てている右腕の獅子を思いっきり振りかぶった。
「『吠えろ!』」
 言魂を込めて、右腕を突き出す——いや、獅子が飛びかかる。
 まるで刃物のような鋭い牙を剥きだしに、マックの喉笛を喰いやぶるべく獅子が吼える。
「やるしかねェだろ!」
 首に牙が食い込む数瞬前、マックは獅子の横面を思いっきり平手で張り飛ばした。
 ガッ、と獅子が鈍い声を上げ、モンスターもたまらずよろめく。
 なおも自分を憎しみを込めて睨むモンスターに
「俺を倒すんだったら、獅子なんかじゃなく……象でも竜でもくっつけたが良いぜ!」
 と、気っ風良くマックは啖呵を切った。
 そのまま間合いを詰めたマック、振り上げた拳をモンスターに振り下ろす。
 ごお、と。唸りを上げる勢いで振り下ろされたマックの拳を
「やかましい!」
 と、躱しざまにモンスターはマックの腹に頭突きを入れる。山羊の角にも似た禍々しくねじくれたモンスターの角がマックの腹に突き刺さった。

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