#69:森の中(四)

「——ガッ!」
 並のモンスターではあり得ない衝撃に、マックもたまらず呻いて血を吐いた。
 そして、動きが止まった大蛇の左腕が絡みつこうと、マックの首めがけて素早く忍び寄る。
「オラァ!!」
 その大蛇の動きを予測していたかのように大蛇の胴をくぐり抜け、マックはモンスターにカウンターで渾身の一撃を加える。
 ドゴォッ!、と言う人間の拳で殴ったとは思えない音が響き、ボディに重い一撃を食らったモンスターは呼吸が止まるほどの衝撃に顔を歪めた。
「……!」
 流石にたまらず、後ろに飛び退いて間合いを取るモンスター。
「待て、コラ!」
 口の端に付いた血を拳でぬぐいながら、マックはモンスターを追いかける形で間合いを詰め返す。

 そんな、マックとモンスターの死闘を。
 誰も見たこともないような——言魂をも操るモンスターと互角に戦うマックを。
 テルプシコルも、メイミィも、ジンも。
 ただ、圧倒されたように無言で見ていた。
「……すごい」
 半ば無意識のうちに、呆然と呟くメイミィ。
 その横でテルプシコルは言葉すら発せず、ただただ絶句して闘いを見ている。
(……このまま見ているわけにも)
 と、ジンは隙あらば、マックに加勢しようとする。
 が、あまりにすさまじい攻防に——巻き込まれると命に関わりそうな激しい戦いに
(でも、一体どうすれば……?)
 と、入るきっかけがまるでつかめないまま、ジンはただその場に立ち尽くしていた。

 そんな攻防の中。
「ガッ……っ!」
 大蛇でのなぎ払いをモロに食らったマックが、ジン達の近くに飛ばされてきた。
 痛撃を受けた脇腹を抑えながら、苦悶の表情でゆっくりと立ち上がる。
「畜生……読み違えた」
「大丈夫!?」
 反射的に尋ねたジンは、眼前のマックを見て思わず息を呑んだ。
 二の句が継げなくなったジンに、メイミィは泣きそうな顔で言う。
「だいじょうぶなわけ……ないじゃん」
 マックの姿は、それはそれは凄まじいものだった。
 無数の打ち身に加え、獣の爪や牙でえぐられた裂傷がいたるところにあり。
 滝の如き勢いで、身体のそこかしこから血が流れている。
 オーラはまだまだ輝いているものの息は上がり、体力の限界までごく僅かなことが見て取れた。
 マックはチラっと3人の顔を——恐怖と絶望とが入り混じったような3人の表情を見ると、ふうっと重い息を吐く。
「ざまァねぇな……」
 自らの惨状を自重するように笑うと、マックは正面のモンスターを睨みつけた。
 モンスターも息が荒くなってはいるがまだまだ戦意も体力も、そして憎しみも衰えない様子だ。
「散々殴りつけたけど、どれっくらい効いてるのかわからねェ……」
 マックは言いながら、3人の前に立ちはだかるように、仁王立ちにモンスターと対峙すると
「——怖ぇよなぁ」
 と、誰にともなく呟いた。
 言わずもがなの言葉にどう返事をしていいものやらわからず、無言で背中を見上げている3人の方へ、マックは首を巡らせる。
 そのままハハハ、と。どこか楽しげにマックは笑う。
 その笑いの意味をはかりかねて立ち尽くすジンに
「おい、ジン坊といったな」
 と、マックは背中で語りかけた。
 急に名前を呼ばれてビックリしたのか、ジンは思いっきり目を丸くする。
「これから——俺ァ、イチかバチかの大技を入れる」
 おそらくはモンスターにも聞こえている。
 でも、構わない。
 そのくらいハッキリした声音であった。
「後のことは知らねぇ。一撃で打ち倒すつもりだからな」
 言いながら。
 マックの身体が輝きを増していく。
 ——残る体力をすべて攻撃のオーラに回している証拠だった。
 あからさまと言えばあからさますぎるその行動を、呆然と見ているジンに向けてマックは告げた。
「これでどうにもならなかったら——2人を連れて、一目散に逃げろ」
 ジンは、この言葉を聞いてその場に棒立ちになった。

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