#7:街道から山道へ(一)

 そして、翌朝。二人は手早く出立の支度を調えた。
「良い天気になったねえ」
 ジン、晴れ渡る青空を見上げて軽く伸びをした。晩夏のさわやかな風が心地よい。
 アークは荷物をまとめて立ち上がり、ジンの方を振り返った。
「よし、行くか」
「うん」
 ジンが準備できているのを確認して、アークは歩きだした。内懐から取り出した地図を広げて、うむと頷く。
「こっちの方に行くとあるはずだ」
 手元の地図を見ながら、アークは迷い無く進む。ジンはその横を疑いもなくついて行く。
「明るいうちにつくといいね」
 そうだな、と言いかけたアークの歩みが不意に止まる。
 厳しい表情になったアークを不思議そうにジンは見た。
「どうしたの?」
「オーラをまとって下がっていろ、ジン」
 言いながら、自身もオーラをまとうアークを見て、ジンは言われるがままにオーラをまとい三、四歩下がって待機する。
 そして、次の瞬間。
「ぐわうっ!」
 雄叫びを上げて、狼のような豹のような獣が脇の茂みからアークに向かって飛びかかってきた。黒く不気味な霧を身体のまわりにたなびかせて、
 体長二メーター強。黒曜石の杭を並べたような牙、良く鍛えた鋼で造られた鎌のような鋭い爪、そして刃物や弓矢などを簡単にはじき返しそうな金属感すら感じるほどに強固な毛皮に包まれた強くしなやかで俊敏な肉体。
それはまるで——出会ったものを傷つけるためだけに存在しているような生物だった。
「も、モンスター!?」
 ジン、急に現れた大型のモンスターに目を見開いて驚いた。
 普通の人間なら、抗う術さえないようなモンスターとアークは距離を詰めて相対している。
 気負った風ではない構えは、しかし、全く隙が無く。さしものモンスターも不機嫌に呻きながらアークを睨み付けることしかできなかった。
「では、行くか」
 ずいっと。隙の無い構えを解いて、あまりに無造作な歩みで間合いを詰めるアーク。
 不意に攻撃されたらつい防御をしてしまうのと同じく、不意に大きな隙を見せられたら……つい攻撃をしてしまう。
 モンスターはアークが見せた大きな隙に、本能的に反応をした。
「がうぅっ!」
 一声吠え、致命的などこかの部位をかみ砕こうと、触っただけで怪我をしそうな鋭い牙をむき出しにして、アークに飛びかかるモンスター。
 大気を震わせてとびかかってきたモンスターの攻撃を——完全に読んでいたのだろう——アークはこともなげに少しだけステップバックしてかわしてみせる。
 息を詰めてその様子を見るジンの眼前で、アークは剣の形にオーラを構築する。攻撃を避けられて、体勢を崩したモンスターに向かって大きく踏み込み
「『ハウリングソード!』」
 裂帛の言魂とともにモンスターの首をめがけ、アークはオーラ剣を一閃した。
「ぎゃうっ!?」
 アークの技をまともに食らい、モンスターは派手に吹き飛ぶ。
 それがおそらく致命傷だったものか、一回地面にバウンドして軽く呻いたモンスターの身体から黒い霧が文字通り霧散する。
モンスターは一度頭を上げようとしたが、力尽きたのか
「——ぐるる……っ」
 と、弱々しく息を吐くと一回身震いをして——絶命した。

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