#70:森の中(五)

 視線を巡らせると、メイミィもテルプシコルも目を見開いている。

 なぜ、これだけの実力があって——『一度退く』という選択をしないのか。
 なぜ、こんなに傷だらけになっても、真正面から殴り合いをしているのか。
 なぜ、最初からずっと、前へ前へ出続けているのか。

 ——まるで、モンスターを彼の背後にあるなにかに近づけぬように。

 それに気がついたジンは恥ずかしさと悔しさが入り混じったような表情になり、メイミィは悲しげに目を見開き、そしてテルプシコルは唇を噛んだ。
 もし、自分たちがいなければ、マックはここまでの怪我をしていない。
 もっともっと要領よく振る舞えたはず——自分たちの存在が、ハンデキャップになっていたのだと。
 嫌と言うほどわかったのだった。

 そして、モンスターは射殺さんばかりの憎悪を込めてマックを睨み付けていた。
 右腕の獅子も左腕の大蛇も、憎々しげにマックの顔を見ていた。
 そんなモンスターに、マックはニヤリと笑ってみせる。

「どうした、へばったか?」

 ぐおう!
 右腕で獅子が吠え、鎌首をもたげる大蛇と獅子を地面につける様にぐいっと腰を落として『よつんばい』になった異形のモンスター。
 瞬間的にどす黒い障気がモンスターの身体を覆う。

 ——先手必勝。
 マックの思惑を外すべく、モンスターは先制攻撃を仕掛けてきた。
 その気迫と殺気は、モンスターの方こそが大技を放とうとしていることを如実に表していた。
「『喰いちぎれ!』」
 モンスターの口から、血を吐くように凄惨な言魂が紡がれた。
 大蛇がうねうねと地面を這い、獅子が前足で蹴った地面が爆ぜ、低い姿勢のまま頭の角を振り立てて……言魂の力を込めてモンスターが突っ込んでくる。
 もし、体当たりであるのならば……とても避けることなど出来ない。
『一撃で殺す』
 まさに、必殺の気迫が込められた言魂だった。

 そんなモンスターの攻撃を見てマックはなおも不敵な笑みを浮かべてみせた。
「見え見えだ——」
 その刹那、マックのオーラが爆発的に輝く。
 胴に巻きつき、締め殺そうとする大蛇を力づくではねのけて、直後に迫る獅子の腕と角を振り上げて突進してくる『本体』を迎え討つ。
 後ろに控えるジンは、マックの巨躯を覆い尽くす勢いで迫るモンスターの巨体に、ただ立ち尽くすばかりだった。
「避けてェ!!」
 メイミィが叫んだ、まさにその瞬間。
 飛びかかってきた獅子が脇腹に食い付いたことも、山羊角が胸のあたりに突き刺さるのもまるで気にせず。
 体当たりをしてきたモンスターを抱きとめた——そんな密着間合いで。
 マックのオーラが拳のあたりで爆発するようにはじけた。

「『グランドクロス!』」

 拳も砕けよとばかりに、マックは渾身のカウンターパンチをモンスターに放った。

公開 : (1150文字)

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