#71:森の中(六)

 オーラで光をまとったマックの拳が、何の遠慮もなくモンスターの顔面に叩き込まれる。
 拳の先ではじけたオーラは、巨大な異形のモンスターを恐ろしい唸りと衝撃の響きとともに数メーター吹き飛ばし、そして地面に叩きつけた。
「まだ来るか!?」
 あちらこちらから鮮血を吹き出す大けがを新たに負いながら、マックは地面に転がるモンスターに見得を切った。
 すかさず立ち上がったモンスターだったが、思いのほか大きなダメージを喰らっていたのか膝が崩れそうになる。
 両腕の獣も息絶え絶えと言った風で、ダメージの蓄積が全身に及んでいることが見て取れた。

 戦闘不能。

 そのことを悟ったモンスターはマックを一度睨みつけながら悔しげに歯がみすると、振り返りもせずに背後の茂みの中に身を投じた。
 そして、そのまま暗い森のなかに姿を消したのだった。

「…………」
 モンスターが消えた方向を、マックは構えを崩さぬまま見ていた。
 が、茂みを割って再び現れるような気配は感じられなかった。
「なんとかなった……か?」
 マックは誰にともなくつぶやいたが、特に返事はなかった。
 そして、マックはゆっくりとただ呆然と立ち尽くしていた背後の三人を振り返り、ふうっと安堵の吐息を漏らしてから
「もう、大丈夫だ」
 と、笑ってみせたのだった。

「なんだったのだ、今のは?」
 テルプシコルは青ざめた表情で、気味悪そうにモンスターの立ち去った茂みを見る。
 目の前から姿を消してなお、おびえたような表情になっていたが無理からぬことであろう。
「モンスターだけど、人間のモンスターってはじめて見たよ……」
 絶句するメイミィの横で、まだ信じられない風に呟きながらジンは首を振った。
 今まで見たモンスターは、確かに凶悪に変化を遂げてはいたものの、虎なら虎、犬なら犬と元の生物の面影は残していたものだった。そんなモンスターに言魂を操る知性などは感じたことはなかったし、無論、人間がモンスターになるなどと考えたこともない。
 まして——人間が獣と融合してしまうなど、ありえないことであった。
「マァ、なんにせよ洒落にならねェ相手だったなぁ……あんなのはアイツだけにしてもらいてェもンだ」
 はぁっと。マックも心底疲れたような息を吐く。
「そもそも、モンスターというのは……!?」
 と、言いかけて絶句したテルプシコル、マックを見て思いっきり固まっていた。
 そして、つられてマックを見たジンも驚愕の表情で目を見開いた。
「……大丈夫?」
 今更ながら、血まみれのマックを見てビックリした風のジンに
「イヤ、面目ねぇ。もう少しスパっと勝てると良かったんだけどヨ」
 とか、何故か照れくさそうに頭をかく仕草を見せて、マックはワハハと笑ってみせた。
 そして、目のあたりにたれてきた血を汗でもぬぐうようにぐいっと腕でぬぐう。
 あきれたように言葉を失うジンの横でオーラをとき、元の姿に戻ったメイミィもジンの視線を追い、驚きのあまり動きが止まった。
「ちょ……すごいケガだよ!?」
 腹を二カ所、胸を一カ所の計三カ所を鋭い角で突き刺され、どくどくと血が流れ出ている。
 また、脇腹と腕には深い切り傷と噛み傷が数えきれぬほどあり、当然血は止まっていない。
 さらに顔や頭にも無数の裂傷、打撲の跡があり、きっと服の下にも怪我があるだろう。
 ——有り体に言って、瀕死の重傷である。
「ちょっと、動いちゃダメだから!」
 そんなボロボロのマックを見て、メイミィは悲鳴にも似た声を上げた。
 そんなメイミィの声を、ちょっと意外そうに聞いたマック。
「大げさなことをいっちゃイケねえや。こんなの二、三日寝ればそのうち治ってらァな」
 と、マックはお気楽にかんらからと笑ってみせる。
 まあ、なんというか……鈍感に生まれると何かと得なのかもしれない。

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