#73:森の中(八)

 驚きのあまり瞠目するテルプシコル、口に手を当てて驚愕するメイミィ。
 ジンも目を見開いたが
(……だった?)
 と、少し怪訝そうな表情を浮かべる。
 マック、そんな三人の様子を見つつ話を続ける。
「ミュートス狩りは知ってるだろ?」
 うん、と。話の行方を探りながらおずおずと頷くメイミィとジン。
 マックはそんな双子に——主にメイミィに頷いて見せた。
「アレがどうしても納得いかなくてな」
「納得いかなくて?」
 今度は驚きではなく、メイミィは疑問で目を丸くする。ジンも、そしてテルプシコルもマックの言葉を待つ。マックは、そんな三人を見て面白そうな笑顔を浮かべて

「騎士を辞めた」

 と。この上なくサッパリと言い切った。
 聞き違えようのないマックの言葉を受け、見開かれた三人の目が点になる。

 帝国騎士といえば、皇帝直属の家臣であり戦士である。数あるロゴス使いの中でも一握りの人間しか選ばれることのないエリート中のエリート。
 帝国が存在しない時代に生きたテルプシコルですら『騎士』という称号が持つ重みは充分理解できた。
 まして、騎士の弟子として修行の旅をしてきたジンは言うまでもない。

 だが当のマックは、細かいことは気にせずとばかりにワハハと実に面白そうに笑った。
「騎士の位を叩き返して。計画も何もなしに出てきて、一年ちょっと。いよいよ飢え死にかと思った矢先に、こうやってミュートスを助けることが出来るってのは、運がいいやな」
 ——いや、飢え死にしそうになる時点で運は良くないのでは?
 そんなジンのジト目と、相変わらず目が点になったままのテルプシコル。
 その横で、メイミィは信じられないとばかりに思いっきり首を横にぶんぶんと振った。
「騎士を辞めてミュートスを助けるなんて……帝国に追われるかもしれないよ?」
 ミュートスは『お尋ね者』とか言うレベルではない。『帝国の敵』なのだ。
 それを助けるというのは『元・帝国騎士』マックも『帝国の敵』になると言うこと。
 心配げなメイミィを見て、マックは不敵な笑みを浮かべ
「おう、上等だ!」
 と、スッパリ啖呵を切った。
 そして、マックは三人に向かって、改めて居住まいを正した。
「こうやって助けて貰ったのがミュートスだってのも何かの縁。旅の行き先はまだ知らねェが、どうか用心棒をさせてくれねェか?」
 ジンとメイミィは思いもよらないマックの提案にただただ顔を見合わせた。そして、テルプシコルは難しい表情で
「帝国騎士か……」
 と、腕を組んで唸る。それを見て、メイミィは首を横に振った。
「元でしょ? わたしがテルちゃんに会うことができたみたいに、これは何かの縁かもしれないよ?」
 メイミィの言葉に頷きながらも、今ひとつ釈然としないような表情のテルプシコルであった。

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