#74:森の中(九)

 メイミィはそんなテルプシコルに、自分の考えを確認するかのように熱弁をふるった。
「飢え死にしそうになっても、騎士を辞めてミュートスに味方してくれるんだもん。わたしは信じることができると思うよ」
 メイミィは少し哀しげな表情になると、マックの方を向いた。
「それに、さ」
 と。二回の癒しの言魂でもまだ癒えきらぬマックの傷を見て、メイミィは表情を曇らせる。
「……こんな大怪我をしてまで、わたしたちを助けてくれたんだもん」
 テルプシコルはそう言われ、改めてマックの傷を見て小さく呻く。
 確かに常人ならば死んでいた——そんな怪我であった。
 そして、苦悩のテルプシコルの後ろで。
(要するに、テルプシコル達の国を滅ぼしたのも——『騎士』なんだよね)
 帝国騎士の前身である『カルデア騎士団』にすべてを壊された記憶がテルプシコルの態度を固くさせるのかと推察し
(アークも帝国騎士だからって、テルプシコルを捕まえようとしたし……ね)
 色々と思い出して、ジンはなんともやりきれない気持ちになった。
 そして、メイミィは息を吸い込んでオーラを纏う。
「よし、もう一回」
「少し、間を開けろ。身体がもたんぞ」
 同じ内容の言魂を続けて紡ぐのは、より強い思いを込めねばならず、出来れば一晩くらいは間を開けたいところであった。
 メイミィの身体を思って忠告するテルプシコルに、メイミィはゆっくりと首を横に振る。
「だって……まだ治ってないから」
 そう言って、獅子の爪にえぐられたマックの腕の傷に手を当てる。刀で彫ったような直線の傷が数本、筋肉で隆々と盛り上がる胸板に痛々しく走っていた。
 メイミィはそんな胸の傷に手を当てたまま、マックの顔をのぞき込むように見上げる。
「痛いよ……ね?」
 どきん。
 こういうことには、免疫がないものか?
 鼓動一発、猛烈に顔を赤らめながら『いや、なに、こんくらい平気の平左だ』としどろもどろに答えるマックには頓着せず。
 目を閉じ、息を吸いながら精神を集中し、メイミィはおだやかに癒しの言魂を紡いだ。
「『これで痛くない……』」
 ぽおっ、と。
 優しいぬくもりがマックの傷を包み、深かった傷が目の前でふさがっていく。
 そんなぬくもりの中で、マックはテルプシコルの言葉を思い出し、心配そうな目でメイミィの顔を見た。
 メイミィは眉根を寄せ、少し苦しそうに目をつむって集中していた。
「……はい、終わったよ」
 戦う前とまるで変わらぬ状態になるまで回復し、驚くやら申し訳ないやらで複雑な表情のマックに向かって、額に玉のような汗を浮かべてメイミィはやさしく微笑んだ。
 マックはまだ頬を赤らめながら、しかし、真剣な面持ちでメイミィに頭を下げた。
「こんなに丁寧に治してくれて、本当にありがとう」
 そして。
 その様子を黙って見ていたテルプシコル、ふっと、微笑みながら言う。
「……そうだな。ちとがさつだが、信用は出来そうだ」
 テルプシコルの横でジンも頷く。
 盗賊の一味かもしれない、自分たちを帝国につきだして賞金を狙う賞金稼ぎかもしれない。
 そんな風に色々と気を揉んだのが馬鹿らしく思えるほどに、まっすぐな男だった。
 テルプシコルはマックに向き直り背筋を伸ばすと
「マックと言ったか。こちらからも是非お願いしたい」
 と言って、丁寧に頭を下げた。
 そのテルプシコルに、マックは満面の笑顔を見せた。
「そいつァ、良かった。よろしくな」

 その様子をにこやかに眺めていたジン。
 あ、と。何かに気付いたような感じになり、ちょっと難しい顔をしてマックに言う。
「でも……お礼ができそうにないんだけど」

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