#77:森の中(十二)

 ともあれ、話はしていても手を止めていなかったマックは下ごしらえを終えた野菜を脇によけ、自分の荷物の中からとりだしたバターを鍋に投入。それでニンニクとみじん切りしたタマネギを炒め始める。
「タマネギはよく炒めて、ニンジンは固いから早めに炒めるンだ」
 と、誰にともなく手順を説明しながらマックは調理をしていた。
「ニンジンがしなっとしたら、他の野菜を入れちまうぞ。トマトとキャベツは最後の方で入れるからまずはトックリと待ちの助だ」
 じゅう、と言ういい音とともに、オリーブオイルとは違うバターの良い匂いが広がる。
「しかし……ピーマンとパプリカみたいな足の速いのが残ってるのを見ると」
 木べらで手早く野菜を炒めながら、マックは誰にともなく呟いた。
「さては、メイミィ。ピーマンが嫌いだな」
 笑ってメイミィを見るマック。それを受けて、苦笑しながら『お姫様』を見るメイミィ。
 なるほどな、と。何となくからかうような表情で、マックはテルプシコルを見た。
「ピーマンが嫌いってェのは、舌の方もお子様になっちまったってことか」
 なにを、と。それを聞いたテルプシコルは言い返し……てみようとしたが、なんとなしに分の悪さを感じたのか、ちょっと小声でマックに反論してみせる。
「別に嫌いなわけではない、ぞ……食べることは出来る、出来るのだ。ただ……あまり得意としないだけだ」
 その反論に、マックはガハハと豪快に笑って答えた。
「そういうのを『嫌い』って言うんだぞ、テル助」
 うむう、と呻いたテルプシコルに、不敵な笑みでこう付け加える。
「まあ、コレを食べてみな。カレーにすると、ピーマンもパプリカも美味いぞ」
 テルプシコルは言われて鍋を覗いてみる。小さく切られたピーマンやパプリカが、ぐつぐつと煮込まれていた。
(……何に入れても、ピーマンはピーマンだろうに)
 と、ちと参ったような表情になったテルプシコルだが、その後、マックがざく切りしたトマトや大きめに切ったキャベツ、苦心惨憺して皮をむいたジャガイモを投入、さらにじっくり煮込んでいるのを見て表情を和らげた。その様子が、まるで料理の出来上がりを今か今かと待ちわびる子供のような画になっているのを見て
(やっぱり——子供になってるのかなあ)
 と、メイミィは面白そうにクスリと笑った。
 そして、結構な量が出てきたアクをとり、ニンジンやカボチャなどの堅めの野菜の煮え具合を見て、満足げに頷いたマックは実にうれしそうに言う。
「——よし、そろそろだな。カレー粉を入れるぞ」
 自分の荷物の中から、目が詰まった綿の袋に入ったカレー粉を取り出してマックは目分量で鍋に投入する。その瞬間、何種類ものスパイスが絶妙に絡み合った、なんとも食欲を刺激する香りが一気に立ち上がった。
 においをかいで思わずにっこりしたジンとメイミィ、初めてかいだスパイシーな香りに目を丸くさせるテルプシコル。
 そんな三人を見て、マックはうれしそうに笑った。
「良いにおいだろ?コレでしばらくコトコト煮込んでコクを出すんだ」
 そんなマックを見て、ジンは内心首をかしげた。
(バターやカレー粉は余分にもってたのに……食べ物は持ってなかったのかな?)
 それほどにカレーを愛していたのか。せめてレンズ豆くらい持っていればよかったのにと。
 考えてから、ジンはすこし苦笑したのだった。

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