#84:ゴート執務室(四)

「……と、言うことだ」
 アークと別れて二十分強。地図を見せ、ジェスチャーを交えながら説明を終えたゴートに向かって
「わかりました」
 と、スフィンクスはしっかりと頷く。そして、表情を引き締めてゴートに向き直った。
「ミュートスの隠れ里を探索するのに加え、アークトゥルス卿が遭遇したというミュートスの王族についても当たってみます」
「よろしく頼んだ」
 ゴート卿はそういうと、ニヤリと笑った。
 それを受けて、仮面の下の目を笑み細めたスフィンクスも
「それでは、失礼いたします」
 と、恭しく一礼した。ネメアも、その後ろで無言のまま頭を下げる。
「くれぐれも道中気をつけてくれ」
 と、言うゴートの言葉にもう一度会釈をして、スフィンクスとネメアは部屋を辞した。
 それを見送って、広い部屋にひとりたたずむゴートは壁際のキャビネットを見ながら
(どうするかな……)
 と、しばし考えた後で
「……まぁ、少しくらい良いだろ」
 とか独りごちながら、タンブラーとラク酒の瓶を手にとって席に戻る。
 そして、やおらどっかりと椅子に腰をかけ、眉根に皺を寄せてゴートは考え込む。
(モンスターの大量発生、狙い撃ちされる帝国兵……)
 まだまだ陽は高く。机上には決裁待ちの書類が積み上がっていた。
 だが、ゴートは微塵の躊躇も見せずに、タンブラーに瓶の中身を注ぎ出す。
 無色透明、すこしとろっとした液体はグラスに注がれるやアニスの独特の香気を放つ。
 ラク酒は水で割るとミルクのように白く濁るのが特徴なのだが、そんなことに気がつくことは一生無いだろうと思えるほどの飲みっぷりでゴートはストレートのグラスを一気に飲み干した。
 ふう、と。四十数度のアルコール混じりの吐息を漏らす。
(その上、古代ミュートスの王族復活か)
 とくとく。
 もう一杯、おかわりを注ぎながら
(尋常でない事態が目白押し、だな)
 タンブラーの中でラク酒が揺れるのをみながら、ゴートは考えに沈む。
(ガレノスの爺様も相変わらずチョロチョロしてるし……)
 グラスの三分の一ほどを口に含み、広げっぱなしの地図を見て、ゴートはシニカルに笑った。
(まあ、俺もチョロチョロしてるしな。仮面の君とか……そこはお互い様か)
 タンブラーを片手に、ゴートは窓際へと歩いて行く。
 窓の外では、若者達がいつもと変わらぬ熱心さで修練に励んでいる様子が見える。
 その向こうの丘はいたって平穏で。丘の頂上の王城も、別段変わった様子はない。
 だが。
 そんな平和な帝都イリオンの様子からは覗えぬほどに、事態が急に動き出しているのをゴートは彼の配下からの報告から痛いほど感じ取っていた。
「——さて、次は何が起こるんだろうな?」
 ゴートの問いに答える者はおらず、ただ、時が過ぎていくのだった。

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