#89:アークトゥルス、自室

 そして、ウゾの瓶とグラスを自分の部屋に持ち込んで、アークはしばらく物思いに耽っていた。
(辺境に行けば、しばらくは戻れなくなる……か)
(いつまでも母さんをレクサと二人だけにしておくわけにもいかない……)
(——父さん、どこにいるんだ?)
 脈絡のない、結論も出ない——そんな思索に沈みながら、いささか乱暴な勢いでベッドに横になる。
 地面に敷布……時にはマントにくるまっただけで熟睡出来る身体になったアークだったが、それでもクッションの効いたベッドの心地よさは格別に思えた。
(ベッドは久しぶりだな……)
 すうっと、目を閉じてアルコールと疲れの酩酊に身をゆだねる。
 夢うつつの中、自然に思い出すのは同じ敷布でごろ寝していた——ジンの事。
(ジンのヤツ、今頃どうしているかな?)
 結局、帝都にくることを拒んでいたジンを、この家に連れて来ることはできなかった。
 そもそも、気を失っていたためにちゃんとした言葉もかけることも、顔すらも見ることもなく別れてしまった。
 当然、『その後、どうするつもりなのか?』の答えは聞けずしまいだ。
(無事でいてくれれば、それでいいのだが……)
 さらに思い出す、ジンの生き別れの妹だという——双子の少女。
 そして、強大な力を持つ——古代ミュートスの巫女。
(……まだ、ミュートスの連中と一緒にいるのだろうか?) 
 まだ行動を共にしているのか、別れたのか……
 閉じたつもりの目はいつの間にか開き、無意識のうちに天井の一点を見つめていた。
(ジンと会ったところに、行ってみようか……)
 最初に会ったときと違い、そこらの盗賊や無頼にはひけを取らないだろう。
 であれば、故郷へ戻っているのではないか?

 ——そんなことをまとまらない頭で考えながら、アークは眠りに落ちていくのだった。

公開 : (750文字)

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