#90:ペラマ辺境、山中

 深い森の中を抜ける険しい山道を、テルプシコル一行は歩いていた。
「しかし、すげェ山の中だな……」
「隠れ里だからね?」
 マックの呆れたような独白に、メイミィは苦笑気味に返した。
 ジン、その横でうんうんと頷く。
「分かりづらいところにあるからこそ、ずっと見つからずにいたわけだからね」
 そのジンのセリフに、メイミィが補足を入れる。
「わたしの里も、すごい山奥の分かりにくくて行きづらいところにあるし」
「なるほどなあ」
 行く手を阻む大きな岩をまたぐのに四苦八苦している双子の説明に、マックは得心げに頷く。
 そんな一行の会話を黙って聞いていたテルプシコルだったが、やおら複雑な表情で周囲を見渡し……ジト目でマックを見る。
「——今度は、大丈夫だろうな?」
 その視線を受けて、タハハとバツが悪そうに笑うマックの横で、メイミィは
「今度はわたしが地図を見てるから、平気だと思うよ」
 と、苦笑してみせた。
 テルプシコルはそれを受けてうむ、と頷くがなんとも釈然としない表情である。

 結論から言うと。
 このマックという男は、とんでもない方向音痴であった。
「この辺りは、修行や巡回で何度か通ったことがあるぜ」
 とか言うので、地図を渡して道案内をまかせてみたのだが……

・「ここを抜けたら、到着だな」と森を抜けたら断崖絶壁が目の前に。
 ——『ミュートスはカモシカではないぞ』(テルプシコル談)
・「この道の突き当たりが隠れ里だろう」と獣道を抜けたら巨大な湖に。
 ——『こんな開けた場所で隠れられるか!』(テルプシコル談)
・「今度は大丈夫だ。もうじき里だろう」と言った直後に県都であるヨアニナの街に到着。
 ——『ずいぶんと大きな「里」もあったものだな』(テルプシコル談)

 などなど。
 一行を大いに振り回して、無駄足を運ばせまくったマックは
「もう、お主はカレーだけ作っておれ!」
 と、テルプシコルに大いに叱られていたのだった。
 しかし地図係がメイミィに交代して、相当に険しい道を通りながらも正しい道を歩いていたものか。
 茂みの中にある印を見つけて小さく声を上げた後で、メイミィは皆の方を振り返るとにっこりと笑って見せた。
「ウチの里にある入り口と同じだ」
 別段、門があるわけでも、木の幹に印があるわけでも……ましてや看板があるわけでもない。
 ただ、杉林のなかにオークの木が二本、まるで門のように生えていた。
 そのオークの幹と幹の間を抜けると茂みがあり、茂みには人が一人入れそうな隙間があった。
「ここか……」
 テルプシコルは少し緊張したような面持ちでその茂みを見る。
「私がムーサイの巫女だと……信じて貰えるだろうか?」
 こんな子供になって、と不安げに表情を曇らせる。
「う、ん……そう、だよね」
 メイミィは神殿で眠りより覚めたところと、なによりムーサイの巫女服をまとってアークをやっつけたトコを見たことで信じたのだが、初対面の人々にいきなり自己紹介して、信じるものか……
「行ってみなきゃ、わからないけど……行くしかないんじゃないかな?」
「おう、ジン助の言うとおりだ。ココで突っ立ってたってどうにもならねェだろヨ」
 テルプシコルとメイミィが辛気くさい表情で悩んでいるのをよそに、お気楽野郎ジン&マックは『なるようになる』的発言をしてみせた。
「……そうだな、行くしかないか」
 何か言い返そうと思ったが、考えてみるとこれ以上気を揉んでも仕方が無いと、テルプシコルは深く頷いた。
 メイミィも同じようなことを考えたのか
「そうだね、そうだよね。よし、いこー!」
 と、ことさらに明るく言い放つ。
 そして、メイミィを先頭にして、茂みの中へと歩みを進めていったのだった。

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