#91:隠れ里(二)

 茂みを抜け、一行の前に広がったのは多くの死体。そして焼き討ちされた里の跡だった。
 最初はメイミィが。
 次にテルプシコルが。
 そして、ジンとマックも。
 その惨状に、ただ息をのみ立ち尽くした。
「これは……何があったのだ?」
 誰ともなく、テルプシコルが呟く。
 その後ろで事態を把握したマックが顔を怒りに歪めて里を見回した。
「——ミュートス狩りだ」
 ぴくっ、と。
 その単語にメイミィの肩が跳ねる。
(これが……ミュートス狩り?)
 自分が想像していたよりも遙かに凄惨な光景に、ジンはただただ言葉を失う。
 マックはやり場のない怒りを言葉に込め、吐き捨てるように言った。
「里まるごとやりやがった!」
 戦場のごとく焼け落ち、朽ち果てた家々。
 至る所に残る血だまりの跡。
 そんな里の中央、広場になっているところに多くの死体が乱雑に積み重なって放置されていた。
 それを見て、メイミィは口に手を当て立ち尽くす。
(もし、私たちの里でこんな事が……)
 これは、ミュートスの隠れ里すべてに起こりうる惨劇。
 乱雑に積み重なった死体の顔が、故郷の人々のそれと重なり、メイミィはそのイメージを打ち消そうと激しく首を振った。
 そしてジンは、横倒しになっている血まみれの乳母車を見て目を伏せた。
「赤ちゃんや子供まで……」
 男性、女性、若者、老人、子供……皆、無念の表情で息絶えている。
 生きてこの場にいるということが、申し訳なくなるほどの状況だった。
「ひどいよ……」
 泣きそうな——いや、うっすらと涙を浮かべながら。
 メイミィは、あまりの惨状に悲痛な声を上げる。
「ミュートスだって……わたしたちだって、人間だよ?」
 地面に残る何かを引きずったような跡。
 ——村中の死体を力任せに引きずって一カ所に集めた跡であろう。
 メイミィは哀しげに首を横に振った。
「なんで……こんなコトできるの?」
 メイミィのその言葉を聞いたマックはギリっと音を立てて歯がみする。
「ミュートス『狩り』たぁ言うが……捕縛が基本ってェ話だった」
 ぎゅうっ。
 マックのグローブが、強く握り締められて音を立てる。
 表情は怒りに満ち、食いしばった歯の間から言葉を絞り出すように話し続ける。
「だが……これァ、何だ!?抵抗してねェミュートスまでお構いなしに皆殺しじゃねェか!!」
 マックの視線の先にあるのは、膝を抱くように丸まり赤子を強く抱いて守るように死んでいる母親の死体。
 ——背中から弩で撃たれて、抱きかかえた赤子ごと鉄の矢に貫かれて息絶えていた。

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